2019年12月31日火曜日

第20回 ベスト10を作って2019年を振り返ろう。

皆さん、お久しぶりです。
このblog、とっくに忘れられていたと思われてた事でしょう。
なんせ最後の更新は4/30でしたから……

体たらく癖が思いっきり出てしまった……
すみません。
しかし、せめて一年を総括するベスト10だけは!
と、久々に投稿する次第です。
新旧問わず劇場で観た映画たちを、ランキングしていきます。

では早速、参りましょう!

10位 『バンブルビー』(2018 トラヴィス・ナイト)

マイケル・ベイ監督による実写トランスフォーマー・シリーズは実は1作目だけしか観ておらず、そんな自分が観ても良いのか……
と思いつつも「80年代の映画にオマージュを捧げている」「あの『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』(2016)の監督が手掛ける初実写映画」という前情報を聞いた日にゃ「うん、観てみねば!」となりました。 
結果は…… と~っても良く出来た娯楽大作でした。


主人公の成長っぷりとバンブルビーとの友情を上手いこと絡めており、なおかつベイの映画みたいに「画面の中で何が起きてるのかゴチャゴチャして分からん」という事もなく、とても観やすい映画でした。
スピルバーグ映画のように未知なるものとの接触を楽しく、かつドキドキするものとして描き、広々とした舞台に繰り広げられるドラマが、本作の爽やかさに見事にマッチしていました。
主人公たちがバンブルビーに乗ってドライブをする時、ティアーズ・フォー・フィアーズの「ルール・ザ・ワールド」が流れてくるというシーンが個人的にグッときましたねぇ。
80年代のヒット曲なので舞台設定が一発で分かるし、本作の雰囲気作りに一役買っていた選曲になっていたと思います。

9位 『羅小黒戦記』(2019 MTJJ)

京都市は出町柳にある映画館「出町座」で、とにかくプッシュされていた本作。
クリクリお目目の黒猫ちゃんが上の方を眺めているというポスターなので、可愛いなと思っても、一体どんな話なのか全然知らずに観たのです。
いやー、ぶったまげました。

可愛らしい妖精たちが沢山出てくるわ、可愛い見た目に反して凄まじいアクションシーンのつるべ打ちだわ、話の展開やキャラクターのデザインなど宮崎アニメみたいで親しみが持てるわで、「アニメのオイシイところ全部盛りだよ!」と言わんばかりのボリュームに大満足。
中国アニメのクオリティー、凄いですよ。これぞ一級の娯楽映画。
一部のミニシアターだけじゃなく、シネコンとかでバンバン上映して欲しいような映画です。
それだけ多くの人に観てもらいたい映画でした!



8位 『宝島』(2018 ギヨーム・ブラック)

『女っ気なし』(2011)『やさしい人』(2013)『7月の物語』(2017)などでフランス映画をささやかに元気にしている監督、ギヨーム・ブラックのバカンス映画です。バカンス映画って何ぞ?
これは「宝島」と称される大型のレジャー・アイランドをめぐる映画で、スタッフの会議やパトロール風景が映ったかと思えば、警備員の目を盗んで何とか園内に潜り込もうとする男の子たちの奮闘ぶりが映ったり、日向ぼっこしてるじいちゃんが語りだしたり、若者たちが橋の上から度胸試しのジャンプをしたりと「宝島」の中にいる人々の人間模様がパッチワークのように紡がれているのです。
映画を観ている間、カメラに映っている人々の振る舞いがあまりにも自然だったので「これってドキュメンタリー?」と感じていたのですが、それにしては様々な場所にカメラを置き、しかも被写体にカメラに映ることの抵抗感みたいなのがないな…… とも思いながら。

しかし。
この文章を書くために少し調べてみたところ、なんとカメラを160時間以上まわして膨大な素材を編集したものが、この『宝島』なんだそうで。

まごうことなきドキュメンタリー映画だったのです!
役者でもない一般の人々の自然な姿を、よくもまぁこんなに見事に切り取れたもんだと感心してしまいます。
単に皆が楽しんでいる姿ばかりでなく、遊びに来ている家族のお父さんがこれまでどんな境遇を過ごしてきた(この方は難民)とか、警備員のおじさんがこの「宝島」で働く事になった経緯など社会的な面もあって、この映画は非常に様々な顔を持っています。
早いところソフト化してもらって、時おり観返したい映画であります。

7位
『スパイダーマン:スパイダーバース』
(2018 ボブ・ペルシケッティ、ピーター・ラムジー、ロドニー・ロスマン)

サム・ライミ版スパイダーマン(2002~2007)と『スパイダーマン:ホームカミング』(2017)しかちゃんと観ていない体たらくな僕ですが、本作はとても楽しめました。こういう平行世界ものは、否応なしに燃えます。
これに近いものを思い返すと、現役ライダーを助けに来る先輩仮面ライダーたちとの共演回みたいなもんでしょうか。
(寄り道話。仮面ライダーたちの共演回は、先輩ライダーの声が違ってたりする事が多々あったにも関わらず、それでも結構燃えるのは何だったのでしょう。ウルトラマンたちは兄弟でよく集まってたってのもあるかな……)


映画こそ追いかけられてはいないものの、漫画の設定なんかはつまみ食いしているので、所々くすくす出来ました。生粋のスパイディ・ファンであれば、もっと楽しめたんでしょうが。
ところで本作は、庶民的なところから始まっているスパイダーマンを、もっと窓口を広くして観客に寄り添っている作品に見えました。
それすなわち、「誰でもヒーローになれるのだ」という事です。

スパイダーマンをスパイダーマンたらしめているのはクモ能力だけではなく、その力を授けられた人間が持つ勇気、責任。
そここそが、スパイダーマン、否、ヒーローに大事なことなのだと教えてくれます。
そして圧倒的な画面の密度、情報量!

とてもカラフルに彩られた超ポップなスパイディ・ワールド!
それを縦横無尽に飛び回る楽しさ、気持ちよさ!

これを大画面で観れたのは有難かった~。
ペニーちゃんも可愛かったしね!

(何のこっちゃと思う方は、是非とも本編を!)


6位 『屋根裏のポムネンカ』(2009 イジ―・バルタ)

高校生の頃、僕が初めて買った映画秘宝に本作を紹介している記事があり、ずっと観たかった映画でした。
上映の機会もそんなに無かったはずで、自分の中で幻の作品扱いだったのですが、京都みなみ会館でつい先日行われたチェコアニメ特集で遂に観ることが出来ました。
仲良く暮らしているポムネンカたちと悪の帝国との戦いが、とある家の屋根裏で行われるという話です。
いかにもお人形さんといった風情のポムネンカは可愛らしく、仲間たちもクマのぬいぐるみやマリオネット、ねんどの妖精など様々。
反対に悪の帝国のボスは銅像で、奇怪な虫や蛇のようにキョロキョロ動き回る目玉など、なかなかに不気味です。
しかしこの不気味さがチェコアニメの醍醐味といった感じで、たまりませんね。
本作は人形アニメで手作り感溢れており、むかし自分たちがおもちゃで遊んだときのような感覚を呼び起こしてくれます。
僕が観に行った時、2組ほど親子が来ていました。彼らは楽しんで観ていたようで、終わったとき「おもしろかったね」とお母さんに言っている女の子がいました。
映画って、いいもんですねぇ。



以上、10位から6位でした。
さぁ、続けて5位から1位だ!!

5位 『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウエスト』(1968 セルジオ・レオーネ)

タランティーノ監督の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)のタイトル元ネタであるためか、突然リバイバル上映された本作。「昔々西部で……」という詩情に満ちたこのタイトルも勿論好きですが、大作感をででん!
と突きつけてくる旧邦題の『ウエスタン』も嫌いじゃないです。と言うか好き。
……というワケで、大好きなレオーネ映画の中でも特に好きな本作をシネコンの大スクリーンで観れたのは、ホントに感無量でした。
オープニングで汽車がやって来るまでの緊張感!

ヘンリー・フォンダやジェイソン・ロバーズが出てくる時のオペラのような演出!
ラストのブロンソンのとんでもアップ!
おかげで165分はあっという間。
多くを語らず画面で魅せるこの映画、「映画が好きで良かったなぁ」としみじみ思わずにはいられません。
レオーネ監督が僕らに遺してくれた、素晴らしい贈り物です。

4位 『細い目』(2004 ヤスミン・アフマド)

監督の没後10周年という事で出町座が特集を組んでいたので、たまたま観た映画です。一気に監督のファンになってしまいました。
舞台はマレーシア。
マレー人の女の子オーキッドと、中華系(華人)の男の子ジェイソンが恋に落ちて……
というボーイ・ミーツ・ガールものです。
ジェイソンくんは路上で海賊版VCDを売っているようなヤクザ者なので、オーキッドちゃんと仲良くなるのも苦労が絶えません。
その上、中華系であるジェイソンくんは、彼女の周りの友だちから「細い目」と揶揄されて良い思いをされていません。
2人の家族は、そんな子供たちを受け入れ、何とかこの恋が実るように温かく見守るのですが……

とにかく優しさに満ち溢れた映画です。登場人物たちが他の人に向ける優しさ、監督が登場人物に向ける優しさ。
しかし優しいだけでは、甘いだけの映画になってしまいます。
アフマド監督が偉いのは、この世界は優しさだけではなく厳しさもあるのだと、きちんと掲示するところです。
ジェイソンくんが生きる裏世界の恐ろしさ。中華系だからと言う事でいわれのない悪口を言われてしまう民族間の溝。
そんな厳しさを何とか乗り越えて心を通じ合わせようとする主役2人の姿は、とても健気で美しいです。
この手の恋愛映画では侯孝賢の『恋恋風塵』(1987)が大好きなのですが、
この『細い目』もそれに匹敵するくらい好きな映画になりました。一緒に『タレンタイム 優しい歌』(2009)も観まして、こちらも傑作でした。

この人の映画は普遍的なものを持っていますね。
もう新作が観られないという事実は、あまりに残酷すぎます……



3位 『視覚障害』(1986 フレデリック・ワイズマン)

新作『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』(2017)が公開されるタイミングに合わせてか、
京都・大阪・神戸の映画館たちでフレデリック・ワイズマンの大規模な特集上映が組まれました。
彼はドキュメンタリー映画史に多大な功績を残している人物にも関わらずほとんどDVD化されていないので、今回の上映は極めて有意義かつ貴重だったと思います。そんな中に観た一本。


本作は「聾・盲シリーズ」の一作目であり、この作品に続くものとして『聴覚障害』『適応と仕事』『多重障害』(いずれも1986年)があります。
今回僕は、本作と『聴覚障害』を観ることが出来ました。


アラバマ州立の総合養護施設の中にある盲学校が舞台で、施設の子供たちが勉強や訓練をする光景をナレーションやテロップによる説明なしで映していくという、いつものワイズマン流で魅せていきます。
テレビのドキュメンタリー番組の作りだとよく説明が入るワケですが、そうなると僕たち視聴者は「どこか別の話、特別な話」のように感じてしまいます。
ワイズマンは説明を省き、映したものを淡々と掲示する事によって、観客は映画の中に引き込まれていきます。
彼の映画の中に「入り込んでゆく」感覚に陥るのです。
ジョン・カサヴェテスの映画も、このタッチに非常に近いものを感じさせます。その秘密は何なのか……
テストの成績が良かったため下の階にいる先生に答案用紙を見せに行こうとする子供のシーンが序盤にあるのですが、ここが凄い。
おぼつかないながらも、壁や手すりに沿って廊下や階段を渡ってゆく少年。その模様をずーっとワンカットでカメラは追いかけます。
観客は少年の足取りに緊張しながらも、予想以上に器用に歩いてゆくその姿を見て「おおっ」とも思います。
この「緊張と驚き」は、カメラを回しっぱなしのワンカットだからこそ体感できるのでしょう。
編集の段階で所々切らずに丸々使う。
この大胆さこそが、「映画が持ちうる自由」なのだと思うのです。



2位 『ひいくんのあるく町』(2017 青柳拓)

出町座は先日2周年目に突入したのですが、この映画はオープンしたての頃から「公開予定」のリストに入っておりました。
今年の7月に一週間限定で上映され、一応気にはなっていたものの特に期待せずに観たのもあるかもしれませんが……
本当に素晴らしい映画でした。これが卒業制作で作られた映画と聞いた日にゃ、ビックリです!


物語は監督の故郷、山梨県市川大門の町並みを日々歩き回っている謎のおじさん、ひいくんを追いかけるところから始まります。
障がい者の自立施設に通っているひいくんは、空いている時間で町を歩き回り、みんなのお手伝いをしています。
なので町のみんなにとって、ひいくんは誰もが知っている有名人。
一方、青柳監督の伯父さんは、かつて電気店を営んでいました。が、脳出血を患い認知症も併発しリハビリ生活を送っています。
伯父さんはカメラが趣味で、ずっと市川大門の風景を撮影していました。
そこには、賑っていた町や幼いひいくんや監督の姿が映っていました。

過去と現在が、つながり始めたのです。

自分たちの住んでいる町は、かつての賑わいある町とは変わってきているけれど、ひいくんが歩くことで、おじさんが写真を撮ることで様々な人々の記憶に残り続けています。そしてその記憶が、人と人のつながりが、映画というマジックで一つになります。
特別何かがあるワケでもない町。

でも、そこに住んでいる小さな声に耳を傾けてみると、自分の知らない町の歴史が浮かび上がってくる。
ささやかな記憶だからこそ、映画となって映し出されるとき、そのかけがえのなさにグッときます。
映画って、こんな素敵な奇跡をも生み出してくれるんですね。



さぁ、2019年の岩佐悠毅的第1位は……
1位 『カーマイン・ストリート・ギター』(2018 ロン・マン)

今年の1位はコレです!
いや~、こんなに豊かな時間を過ごせた映画はなかったです。早くディスク欲しいっすね!

ニューヨーク州グリニッジ・ヴィレッジに、ニューヨークの建物の廃材を使ってギターを作るという
お店『カーマイン・ストリート・ギター』があります。
パソコンも携帯も持たないギター職人のリック、パンキッシュな装いの見習いシンディ、
そしてリックの母親の3人が、このギター・ショップの店員たち。
この風変わりかつ魅力的なお店には、様々なミュージシャンたちが訪れる……


黙々と作業するリック。出来たばかりの新作ギターをインスタに投稿するシンディ、掃除をしているお母さん。
映画の出だしからしてスローペース。

そしてカメラもどっしりと構えて、店内に漂う落ち着いた雰囲気を切り取っています。
ミュージシャンたちは店の評判を聞きつけてやって来ます。

リックと雑談したり、彼の作ったギターを弾いている時の彼らはとても幸せそう。
変わりゆく街並みに、変わらないお店と、その人々。
この映画は、そんな彼らのささやかな歴史を映した素敵な映画です。
まるでギター版『コーヒー&シガレッツ』(2003)のような味わいです。
そうそう、この映画はミュージシャンとしてジム・ジャームッシュ監督も登場します。
虫に食われた木の内部を見せて「脳みそみたいだろ」なんて談笑してましたよ。




というのが、今年のベスト10でした!
ドキュメンタリー多いな……

意識したワケではないんですが、感銘を受けた映画を並べるとこうなっちゃいました!
僕自身ビックリしています。


今回ベスト10には入らなかったものの、劇場で観て面白かった、良かった映画たちがまだあります。
10本一気にご紹介~。

『AK ドキュメント黒澤明』(1985 クリス・マルケル)
『きみと、波にのれたら』(2019 湯浅政明)
『恐怖の報酬』(1977 ウィリアム・フリードキン)
『グロリア』(1980 ジョン・カサヴェテス)
『COLD WAR あの歌、2つの心』(2018 パヴェウ・パヴリコフスキ)
『シシリアン・ゴースト・ストーリー』(2017 ファビオ・グラッサドニア、アントニオ・ピアッツァ)
『魂のゆくえ』(2018 ポール・シュレイダー)
『ノーザン・ソウル』(2014 エレイン・コンスタンティン)
『パンク侍、斬られて候』(2018 石井岳龍)


『グロリア』は自宅で何度観たか分からないくらい大好きな映画。
シネマ神戸という映画館で『恐怖の報酬』と2本立てだったので行ってきました。
大きな画面で何とも贅沢な2本立てをしてきました。
実は『バンブルビー』と『スパイダーバース』も、シネマ神戸さんで観てきたのです。
素晴らしい映画館で、すっかりファンになってしまいました。

『突撃!博多愚連隊』(1978)や『狂い咲きサンダーロード』(1980)の石井聰亙監督が、石井岳龍と改名してからはピンと来る映画がなくてイマイチだな…… 

と思っていたら『パンク侍』なるトンでもない爆弾をぶちかましていたんですね。これは快作でした!
『魂のゆくえ』は、いずれ本blogで取りあげたい映画です。色々と思うところありだったので。


さてさて。
『イエスタデイ』(2019 ダニー・ボイル)

『幸福路のチー』(2017 ソン・シンイン)
『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』(2019 片渕須直)
『象は静かに座っている』(2018 フー・ボー)
『ラストムービー』(1971 デニス・ホッパー)
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019 クエンティン・タランティーノ)

等々を来年に持ち越して、今年は終わりたいと思います。
これらを持ち越しちゃマズいだろってのは、本人が一番わかってるので突っ込まないこと。
それにしても……

久しぶりに映画の紹介記事を書くと自分で「ああ、なんか腕落ちてないかぁ?」なんて思ってしまいますね。
やはり継続は力なり。

続けることで書く腕も磨かれていくんですよね。
来年はもっと更新できるように頑張りますので、どうか見捨てないでやってくださいね……

それでは、来年もどうぞよろしくお願いします!

イラスト:城間典子