2020年1月3日金曜日

第21回 2019年に観た旧作ベスト5ですよっ!?

こんにちは!
正月休み、どのようにお過ごしですか?
僕は実家に帰っていないため、ヒジョ~にダラダラとした時間を過ごしております。

こんなに年末年始感のない日々は初めてだったりします。
ま、そんな事は置いといて……


昨年も映画館以外で、色んな映画を観る事が出来ました。
それも、観たかった映画を沢山。
なので今回は、DVDやBlu-rayで観た映画たちの中で印象に残った作品をランキングします。
一応、初見の映画を並べますです。
さぁ、いってみましょう!




5位 『メイド・イン・L.A.』(1989 マイケル・マン)

マイケル・マンの代表作『ヒート』(1995)の元ネタとして長いこと気になっていたTV映画です。
観て驚き桃ノ木。
主人公刑事ヴィンセントの娘の件や強盗団の細かい人間模様などがシーンとして無いくらいで、あとはほぼ『ヒート』のまんまじゃまいか!
本編90分少々というTV映画だからこその尺となっており、上映時間
がやたらと長いことで有名なマイケル・マン映画の中では相当に短い!
おかげでテンポ良く進み、一気に魅せてくれます。


『ヒート』では主役二人がアル・パチーノとロバート・デ・ニーロの激シブオヤジたちだったのに対し、こちらの2人は30歳くらいの若いキャスティングです。
二人とも若さゆえの自信の表れや野心を持っており、フレッシュな感覚に満ちています。
物語の流れは同じなのに、人物設定を少し変えるだけで物語の意味合いまで変わってくるものなんですね。
『ヒート』の名シーンとなっているコーヒーショップでの会話は、こちらでも良いシーンとなっています。
常に緊張感を漂わせている強面オヤジたちより、若い兄ちゃんたちが話しているからこそ
「一見穏やかそうに見えて互いの心の中では闘志が……」というのが際立っているような気がして、僕はこちらの方が好きだったりします。


そして『ヒート』と言えば、実銃を使ったという約10分に渡る伝説の大銃撃戦。
勿論、こちらにもあります。規模こそ小さいですが、こちらの銃撃戦もなかなかの迫力。
ヴィンセントが仲間を助けるため、敵の弾をくぐり抜けながら車のボンネットの上を転がり、着地して銃を撃ちまくるトコなんてカッコいいですよ~。
あと、ドアーズの「LAウーマン」をビリー・アイドルがカバーしているバージョンが本作のEDで流れるのですが、これも良いっ!



4位 『ザ・クラッカー/真夜中のアウトロー(ディレクターズ・カット版)』(1981 マイケル・マン)

我ながら「何度も観ているこの映画を入れるのはど~なんだ」と思うんですが、まぁディレクターズ・カット版(以下、DC版)なので勘弁してください。
大好きな本作のBlu-rayをつい先日手に入れまして、メインの劇場公開版だけじゃなく特典とし「4Kリマスター版本編」なるものがありまして、何だと思って観てみたらDC版だったのです。
ちなみに海外だと、マイケル・マン本人が公言しているのもあってか、DC版がメインだそうで。


というワケで、初めてDC版を観たんですよ。
な~るほど。
物語の流れに大きな違いはなく小さなシーンをチラッと足したりくらいなので、作品の補完の意味では確かにコレをオフィシャルとするのも納得です。
例えば…… OPのスタイリッシュなダイヤ強奪シーンから一転して、釣りをしている黒人のオッチャンと一緒に朝日が昇るのを主人公のジェームズ・カーンが見ているのですが、しみじみと良いシーンです。
こういう「物語に直接関係はないけど、入ることによって人物に膨らみが出るシーン」を、DC版では入れているのです。

が、劇場公開版と一番変わっていたのは、画面の色彩です。
彩度を抑え、黒を沈ませたその画面は公開版と比べると非常に陰影に富んだ、フィルム・ノワール的な面を強調した雰囲気になっています。

逆に公開版の方が、様々な明るめの色がしゃしゃり出ているように感じられるくらいです。
マン自身が監修したDC版は、長編映画デビュー作である本作をより普遍的な映画にしようとした執念のバージョンなのです……



3位 『夜の人々』(1948 ニコラス・レイ)

ニコラス・レイと言えば、ジェームズ・ディーンの『理由なき反抗』(1955)の監督で知られる方です。
そしてフィルム・ノワールや西部劇、歴史ものなど様々な映画を撮った職人監督でもあり、ヌーヴェル・ヴァーグの連中やヴィム・ヴェンダースに非常に尊敬された監督だったりします。
あと何と言っても、そのヴェンダースの『アメリカの友人』(1977)に出た時の強烈な存在感。


そんな彼の、デビュー作です。
フィルム・ノワール初期の名作として有名な映画であると同時に、フリッツ・ラングの『暗黒街の弾痕』(1937)と並んで、『勝手にしやがれ』(1959)『俺たちに明日はない』(1967)『地獄の逃避行』(1973)『ボウイ&キーチ』(1974)など多くの「男女逃亡もの映画」の元祖とも言うべき映画です。
こういった何かの元祖と呼ばれるものは、その歴史的価値のみにおいて評価される事がままあり、面白さを伴っているのかと言われると口を閉じたくなる場合が多かったりしますが、この映画はとても素晴らしいものでした。


映画は往々にして、作られた時代の流行だとか社会的な背景が映り込むものです。
しかしこの映画は、ボウイとキーチの男女二人の肉体的・精神的交流をひたすら追い続けます。
彼らの愛は、今観ても全然古びていません。
この映画が「永遠の処女作」と呼ばれる所以も、ここにあるのでしょう。


撮影も実験的かつ面白い試みをしています。
ボウイたちを乗せた車が走っているのを、ヘリによる空撮で捉えたオープニング場面。
それまでの映画にも、空撮による舞台の説明ショットはあったにせよ、本作のようにアクションの流れとしてのショットは、実はこの映画から始まったのだと言います。何と偉大な発明!
そして特筆すべきは、中盤の結婚式シーンでしょう。
いわれのない罪を背負って逃げる羽目になったボウイとキーチ。

愛し合っているのに心が休まらない二人は、ふと逃亡先で簡易結婚式場を見つけます。
気休めとは言え結婚しよう。
そう言って2人はささやかな結婚式を挙げるというシーン。
式場の前に立っている二人をカメラは後ろから撮っています。なので見えるのは二人の後ろ姿。
そこからカメラは動き出し、二人が式場の人と結婚の手続きをするのをずっと背中越しに見守っています。

まるでカメラが、二人の見届け人であるかのような撮り方です。
それを結構な時間を使って映しています。つまり長回しですね。
このようなカメラワークは、撮影時間の節約、物語の必要最小限の説明をしてくれると同時に、本作のテーマである「二人の行く末をただ見守るしかないという事」を、見事に画面の中で描いた描写と言えます。
しかも「ここぞ!」と言うべきところで長回しをしているため、現在のように長回しばかりで退屈だとかカメラの存在がチラつく事もありません。
やっぱり長回しは、使い方次第ですよね!
(誰に向けて言ってんだか)


まぁそんな事を抜きにしても、実に美しい映画でありました。
時おり観返してしみじみとしたくなる、大切な映画になりました。



2位 『キラー・エリート』(1975 サム・ペキンパー)

『ワイルドバンチ』(1969)や『ゲッタウェイ』(1972)『戦争のはらわた』(1977)など「バイオレンス・アクション映画の巨匠」であるサム・ペキンパー監督の中で珍作扱いされている本作。
やれ「カンフー映画ブームに便乗した」だの「忍者が出てきてオカシイ」だの「スパイアクションのなりそこない映画」等々、散々な言われようをあちこちで目にします。
加えて蓮實重彦を筆頭に、青山真治や黒沢清などいわゆる「そっち方面」の人々にえらく気に入られている映画でもありまして、それはそれで気になってしまう始末。
気に入らんかもしれんけど、ペキンパーファンとしては一回くらい観てみたい」と思うのが人情じゃあないですか。


そんなこんなしていると、キングレコードからDVDとBlu-rayが出て、TSUTAYAでも気軽にレンタル出来るようになってしまいました。
早速レンタルして、どんなもんだとチェックしました。
結果…… わざわざBlu-rayを買ってしまいました。

気に入っちゃったんですよ、コレが!
我ながらビックリしました。

これが世に言う、ペキンパーの黒歴史『キラー・エリート』なのかと。普通に面白いじゃないかと。
普通、なんて言うのは良くないですね。とても面白いじゃないかと!
自分の中のペキンパー・ランキングに、結構な上位に来る作品です。


ペキンパー印のスローモーションは言わずもがなですが、男の友情と裏切り、癒しと死を象徴する水の存在も、きちんと入っている!
忍者やカンフーは物語上の刺身のツマみたいなもんで、そこばかり突くのは野暮だと言い切りましょう。
爆薬を仕掛けるOPからして格好いい&ドキドキさせてくれるし、主人公であるジェームズ・カーンが守らなくてはならないアジアの要人が飛行機に乗ってやって来るシーンでの飛行機着陸シーンは、サスペンスの演出という点において、ひとつ前の映画『ガルシアの首』(1974)より明らかに上手くなっています。
そして親友でもあり今や敵となってしまったロバート・デュバルとの、反カタルシスな決着のつけ方……


確かにギクシャクした物語かもしれませんが、ペキンパーのニヒリズムに満ちた視点により「これは映画なのだよ」と開き直って観ることが出来ます。
すなわちこの映画は、オイシイ味つけをされたペキンパー流の冗談なのです。
冗談、と僕が受け取ってもいいくらいに、この映画は観客に対して開かれていると思います。
嘘だと思ったら、是非ともレンタルして観てみて下さい。
「こりゃ面白い!」となるか「くっだらねぇ代物だ!」と怒るかは、あなた次第ですが……


余談
『ワイルドバンチ』や『ゲッタウェイ』では「主人公たちの足を引っ張るダメな若者の役」として出ているボー・ホプキンスが、この『キラー・エリート』では非常に有能な銃使いの役で出てきます。
ペキンパー映画で一番評価されていない本作で、それまでと違う一番良い役で出てくるのは一体何の皮肉なんでしょう……


余談2
自分の中のペキンパー・ランキング。


1位 『ビリー・ザ・キッド/21才の生涯』(1973)
2位 『ワイルドバンチ』(1969)
3位 『昼下りの決斗』(1962)
4位 『戦争のはらわた』(1977)
5位 『キラー・エリート』(1975)
次点 『ガルシアの首』(1974)

奇を衒っているワケではないんですが、こういうランキングになりましたとさ。
未だに観れていない『コンボイ』(1978)と遺作となった『バイオレント・サタデー』(1983)の「ペキンパー最晩年の二本」を、早いところ観たいものです。



1位 『愛欲の罠』(1973 大和屋竺)

ありとあらゆる映画の中で「死ぬまでに観たい映画ベスト1」だったのが、この桃色(要するにピンク)ハードボイルド映画『愛欲の罠』です。
監督の大和屋竺は、鈴木清順と若松孝二の弟子みたいな人で、『ルパン三世』などアニメの脚本家でも知られ、なおかつ日本映画の中で最もアバンギャルドなハードボイルド映画『荒野のダッチワイフ』(1967)を監督した人。
初期のルパン三世が好きで、『荒野の~』にゾッコン惚れ込んだ自分としては、何が何でも観たい映画でした。
それが去年の夏、東京に行く用事があって歌舞伎町のTSUTAYAで本作のレンタルDVDが置いてあり、信じられない気持ちのまま、すかさず借りました。
そして自宅で観た感想は…… 最高だぁ!


監督デビュー作の『裏切りの季節』(1966)と『荒野の~』はモノクロ、『毛の生えた拳銃』(1968)はパートカラー、そして最後の監督作である本作は初めて全編カラーで撮っています。
何と言ったらいいんでしょうか。映画を撮っていることが楽しくて仕方ないという気持ちが、ビンビン伝わってきます。
そして「これは映画という魔法であり、作り物であり、絵空事の結晶なのだ」と言わんばかりの大胆なハッタリのかまし方。
今まで自分が脚本、監督してきた「殺しのナンバー1を賭けて戦う男たちの世界」の集大成みたいな内容。

いや~、たまりません。

清順の『殺しの烙印』(1967)や若松孝二の『処女ゲバゲバ』(1969)長谷部安春の『野良猫ロック セックスハンター』(1970)松本俊夫の『ドグラ・マグラ』(1988)等々、脚本家として著名な人物にも関わらず、今回は同じ清順組の田中陽造が脚本を担当しています。
そのためでしょうか、清順がのちに手掛ける『ツィゴイネルワイゼン』(1980)『陽炎座』(1981)『夢二』(1991)の「浪漫三部作」に通じるものが、そこかしこに感じられます。


とまぁ色々置いといて…… 役者です。
主人公の殺し屋・星を演じるのは、荒戸源次郎。のちの映画プロデューサーであり映画監督である、あの人です。
阪本順治、豊田利晃、大森立嗣をメジャーにした人ですね。
この頃は劇団「天象儀館」なるものを率いており、『愛欲の罠』はその劇団による「第一回製作映画」となっています。二回目以降があったのかは知りません……
プロの役者ではないので、演技がヒジョーにロー・テンションです。

常にボソボソ喋り、セックスするシーンもやる気なさげ。
そんな全身ひねくれオーラをプンプンさせているのが、かえって役にハマっているんだから不思議です。


星の愛している女・眉子は「日活ロマンポルノ」を代表する女優、絵沢萠子です。
僕はこの人のムンムン熟女演技が正直言って苦手な方なのですが、本作における彼女は素晴らしいです。
こんなに魅力的だったのかと驚きました。撮り方が良いんでしょう。

とんでもなく綺麗に見える時が、ふとした瞬間あります。
他にも夢子役の安田のぞみとか港雄一&山本昌平の『荒野の~』コンビだとか色々言いたいのですが、やはり目玉はこの人らです。


殺し屋コンビのマリオと西郷を演じた、秋山ミチヲと神宮ガイラ。
神宮ガイラは単にガイラとも、小水ガイラとも様々な名前で呼ばれる人物ですが、小水一男としてピンク映画を数多く監督した人で、特に『処女のはらわた』『美女のはらわた』(ともに1986年)は、ピンク映画にスプラッター要素を持ち込んだという事で有名な映画です。
そんなガイラが演じた殺し屋西郷は、無口無表情の巨漢という「でくの坊とは正にこれ」といった風貌で、おっかない雰囲気満々。
しかし、西郷はまだ序の口。

問題は殺し屋のくせにマリオネットという設定のマリオこと、秋山ミチヲです。

秋山ミチヲ。
秋山道男と書いた方が有名かもしれないこの男は、若松孝二のピンク映画で歌を歌ったかと思えば出演したり、プロデューサーをしたり、あの『おでんくん』で「おでん屋のおじさん」の声をしていたりの人物なのです。あの妙に素人っぽい喋りは、そういう理由だったのです。
この映画のミチヲはマリオネットなので、全身そういう格好をしていて、ガイラ演ずる西郷に引っ張られながら行動します。
いっこく堂を思い浮かべてください。あんな感じで、マリオばかりがベラベラと喋ります。
まぁ不気味ったらないです。
大の大人がピエロもどきな恰好をして、ウヒャヒャと笑いながら人を殺したり女を犯す(ん?)のですから。
冗談抜きで、軽くトラウマになってしまいそうなインパクトを持っています。
初めてマリオの顔が映るシーンは、時どき夢に出てくるくらいシャレになりません。
それまでの空間が魔空間に変わってしまうほどに、マリオが出ているシーンは異質です。
ホントに、どうしたらこういう発想に至れるもんだと思います。
さすが、『ルパン三世』屈指の名編と言われる『魔術師と呼ばれた男』の脚本を書いた男です。


余談
そう言えば初期のルパンは「誰が裏世界を生きるのにふさわしいか」みたいな感じで、ナンバー1の座を巡って殺し合いばかりしてました。
『魔術師~』に登場するパイカルしかり、あの五ェ門しかり。
大和屋竺の世界観は、ルパン三世ともリンクしていたんですねぇ。

最後に。
『愛欲の罠』は映画史上最も律義な態度でもって終わります。これを律義ととるか悪ふざけの極みととるかは、あなた次第。
噂には聞いていましたが、ホントにずっこけました。いい意味で。




案の定『愛欲の罠』について結構書いてしまいました。
思い入れが強いと、その分書く量も多くなっちゃいますね。しゃーねーなー。
映画館でも『恐怖の報酬』(1977)を大画面で観る機会が二度もあったり『屋根裏のポムネンカ』(2009)を観れたりと、去年は本当に(自分の中の)幻の映画たちに出会えた一年でした。

ありがたや……
なお、今回のベスト5には入らなかったけれど面白かった映画たちも書き出します。


『裏切りの季節』(1966 大和屋竺)
『死の谷』(1949 ラオール・ウォルシュ)
『ブラック・エース』(1972 マイケル・リッチー)
『マーティン 呪われた吸血少年』(1977 ジョージ・A・ロメロ)
『Let The Right One In』(2008 トーマス・アルフレッドソン)


『裏切りの季節』は、大和屋監督のデビュー作です。
話は結構込み入った作りなんですが、奇怪なイメージが曼陀羅のようにドバドバと流れ出てきます。めまいを起こしてしまいそう。
極めつけは不気味な傘!
あんな凄い描写をデビュー作でやってのけてしまうんですから、やはり大和屋竺は恐ろしい人です。
『Let~』とは、『ぼくのエリ 200歳の少女』の原題です。あの邦題が本当に嫌いでして……。
映画自体は、最初に日本で公開された時からずっと心の片隅にある、大好きな映画です。
しかしご覧になった方は分かると思いますが、日本版はあるカットでボカシを入れてしまっているんですよ。作品の理解にとても重要なのにも関わらず。
なので僕は数ヶ月前に、無修正である海外盤Blu-rayを購入しました。
約10年の年月を経て、ようやくあるべき形の『Let~』に出会えました。Blu-rayだから画質も綺麗ですし……



といったベストでした!
次回は普通の映画レビューで、お会いしましょう!