2017年10月1日日曜日

第3回 『散歩する侵略者』が、最高に面白いSF映画だった事に対する喜びと興奮について。

たまには、劇場で観た新作映画についても語ってみねばならない。映画好きというのは、懐古主義では駄目なのだ!
そんなワケで、今回ご紹介するのは黒沢清監督の『散歩する侵略者』(2017)である。

劇団イキウメの舞台が原作であるこの作品を黒沢監督がどのように料理したのか、期待と不安が半分ずつという面持ちだった。
何故そんな心境だったかと言うと、僕は大学生時代に、劇団イキウメではなく、他の劇団によって上演された『散歩する侵略者』を観ており、その時の感触がヒジョ~に良くなかった(個人的にノレなかった)のと、黒沢映画に対して「好きな作品も多いけど、いつも同じことばかりしている」というマイナス・イメージを抱いてしまっているためだった。
果たして……



真ちゃんこと加瀬真治(演:松田龍平)は、突然別人のようになって妻・鳴海(演:長澤まさみ)の前に現れる。戸惑う鳴海をよそに、真治は会社にも行かずに散歩をし始める。夫に何が起こっているのだろう?
その頃、一家惨殺事件を取材しようとしていたジャーナリストの桜井(演:長谷川博己)は、天野という謎の若者に遭遇。彼が探しているという女子高校生・あきらは、桜井もまた追いかけようとしていた人物であった。共通の目的を持つ2人は、あきらを一緒に探し始める。
そして彼らを取り巻く世界は、徐々に変わっていくのだった……



冒頭、何でもない一軒家に女子高校生が入っていく。
このショットだけでも「さぁ。これからとんでもない事が始まるぞ」と言わんばかりの、黒沢映画独特の空気が蔓延している。
(過去に彼が監督した『復讐 運命の訪問者』(1997)を思い出させる。これは黒沢監督の十八番ショットなのだ)
それに続く、黒沢映画史上ここまで派手なアヴァンタイトルも無いだろうというシーンを観ていると、タイトル後は松田龍平と長澤まさみのシーンに変わる。ここからしばらくは、黒沢監督らしさ全開の「じわじわと変化していく日常」がメインになる。
黒沢映画は、本当によくじわじわと観客の不安を掻き立てる。幽霊が現れたり、恐ろしい惨事が起きようと、いつもカメラはじわじわと映しだしていく。カメラがさも観察しているような……と言ったらいいだろうか。

それにしても、黒沢映画の描く家庭の空虚っぷりと言うか胡散臭さったらない。
「リアリティーがない」という次元ではなくて、もはや「家庭」がその後変化していく・崩壊していく世界の前身のように見えてくる。やはりコレは確信犯なのだろうか。


時同じくして描かれるのは、ジャーナリスト桜井と謎の若者・天野の奇妙な道行きなのだが、こちらの件が個人的にツボにハマってしまい。
黒サングラスにヒゲ面といういかにもな姿で現れる長谷川博己に「よしっ」と心の中でガッツポーズ。SF映画のジャーナリストは、こうでなくちゃ。
(ここで言う「こうでなくちゃ」とはSF映画独特の胡散臭さ、それに伴う「その人らしい風貌」に対しての「こうでなくちゃ」であり、『ブルー・クリスマス』(1978)の天本英世と岸田森の謎コンビ、『華氏451』(1966)の消防団などが当てはまる……かな)

余談だが、台本を読んだ長谷川博己は黒沢監督に対して「これは『ゼイリブ』(1988)ですね」と言ったらしい。黒沢監督はそこで勝利を確信したそうだが、さすがシネフィル俳優。
加えて劇中のサングラスも、『ゼイリブ』に対するオマージュから来ているのだとか。
んもう、長谷川さんたら…… 好きになってしまうでしょーがっ!


閑話休題。
(ここから多少ネタバレ在り。)
実は宇宙人であった天野とあきら(そして真ちゃんも)は、自分たちが侵略のために地球にやって来ており、その前に人間が如何なる生物なのかを知るために「概念」を奪っているのだと桜井に語る。
普通だったら逃げるか殺すかするのだろうが、彼はジャーナリスト。本当に宇宙人なのか疑いつつも、天野らに「独占取材」を申し入れる。その代り、天野は桜井に自分のガイドになれと言う。ここに、地球人と宇宙人の奇妙極まりない契約が交わされる。
旅をしながら、桜井は何と天野と共闘するまでになる。


一方では宇宙人となってしまった夫と地球人の妻の愛の物語、もう一方では地球人と宇宙人のバディもの(相棒もの)の物語。
この「異種間バディもの」というヤツを洋画ではよく観る(『ヒドゥン』(1987)とか『ゾンビコップ』(1988)とか)が、何気に日本映画ではなかなかお目にかかれない。それを観られた喜びが、個人的には大きい。

一度組んでしまったのだから、とことん付き合うだけ。これぞバディものの精神。立場や理屈じゃない。そこを突っ込んでしまうのは愚の骨頂。とかく人物の心理状況を台詞で言わせてしまう日本映画において、この潔さは観ていて本当に気持ちが良い。
終盤の2人のシーンは、正直言って主人公夫婦より泣けるぞ!


そしてもう1つ。黒沢監督の映画は、基本的にエコだ。
派手に建物が崩壊したり数台の車がクラッシュするなんて光景は、黒沢映画においてはほぼ無縁。廃墟や木が怪物のような存在感を放っていたり、淡々と銃撃戦が行われたり、画面を見せずに音のみで処理されたりする、なんて事が多い。想像して怖がらせたり驚かせたりするのが、黒沢監督は得意な人だ(その辺りが、先ほど書いた「じわじわ」にも繋がってくるのだと思う)。
しかし時々、どうだ!と言わんばかりの画面を見せつけてくる。近作の『リアル』(2013)然り、私的最高傑作である『回路』(2000)然り。

今作も、街頭の自衛隊登場シーンや病院のパニックシーン、気配を感じさせる家のシーンなど、「数の多さで決まるのではない」とハリウッド映画に言ってやりたいくらい必要最小限のモノ(人や小道具など)で魅せてくれるのだが、終盤に突如現れる飛行機に面食らってしまった。
先の自衛隊登場シーンでは、ヘリコプターの音こそするものの画面には登場しないので、「黒沢監督は、本当に音でスペクタクルしちゃう人だなぁ」なんて思っていたらコレである。
その抜け抜けと飛んでくる飛行機に、僕はまたしてもガッツポーズを取り、もう少しで泣きそうになった(何と大袈裟な、なんて言わないでくださいね。これは実話です)。
この『散歩する侵略者』は、あの20世紀末から21世紀に向けられ作られた黙示録映画『回路』と同じように、どこからともなく飛行機が飛んでくる。世界がどこに向かうか分からない時、黒沢映画では飛行機が飛んでくるのだ!!
そしてその飛行機を見届ける人物は……ここでは言えない!



何だか長谷川さんの件と飛行機についての感想しか言えていない気もするが、ともかく『散歩する侵略者』は必見だ。日本でも数少ない純然たるSF映画であり、バディムービーであり、愛の映画だ。1つの映画で3度美味しい。ごちそうさまでした!


イラスト:城間典子

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