2023年8月10日木曜日

映画きらきら星 第2回『怪異談 生きてゐる小平次』

 こんにちは!

暑い日々が続きますね。夏にはやはり怪談。

今回の映画は窓を開けて団扇をあおぎながら観ると、粋な涼しさを感じれるかもしれません。

 

『怪異談 生きてゐる小平次』(1982年 監督:中川信夫)

旅役者の小平次(演:藤間文彦)、囃子方の太九郎(演:石橋正次)、その妻・おちか(演:宮下順子)は昔よりの幼馴染。だが小平次がおちかへの思いを口に出した事で、三人の関係に亀裂が入る。巡業先で勢いあまって小平次を釣船から突き落とした太九郎は、彼を殺してしまったとおちかの元へ逃げ帰るが、二人の前に死んだはずの小平次が現れた…

ここが見所:

『東海道四谷怪談』(1959)『地獄』(1960)で知られる名職人監督・中川信夫の遺作となった本作は、低予算を逆手に取った撮影がお見事。全編においてカメラは“ほぼ”フィックス、登場人物は三人のみ。

アッと驚くショッキングな描写や効果音など無い代わりに必要最小限のものしか画面に映さず、かえってその抑制ぶりが作品の怪しげな雰囲気づくりに一役買っており、超現実的な描写として魅せてくれます。

日活ロマンポルノの女優として知られる、宮下順子の色気っぷりも特筆ものです。

小平次は本当に死んだのか、それらは全て夢なのか。何をもって恐怖は喚起されるのか。

そんな事をつらつら思いながら楽しめる映画です。


イラスト:岩佐悠毅

誰のこっちゃなイラストになってしまいましたが、左から宮下順子、石橋正次、藤間文彦(後ろ姿なれど)です。昔から思ってきた事ですが、“目”は本当に描くのが難しい。

そして、シンプルな線であれだけ本人の特徴を捉えたイラストを描いていた和田誠さんは、やっぱり凄いなぁと改めて驚くばかりの日々です。

2023年8月1日火曜日

第24回 『独立愚連隊西へ』戦争は痛快で、愉快で、悲しい。

こんにちは!

8月に入りました。今年は太平洋戦争の終戦から78年目の夏となります。

今回は、その戦時下を生きた映画監督、岡本喜八の代表作にして戦争映画の傑作をご紹介します。

 

『独立愚連隊西へ』(1960年 監督:岡本喜八)

 

舞台は中国北部。歩兵第四六三連隊が八路(パーロー)軍の攻撃を受け、軍旗を持って危機を脱した北原少尉(演:久保明)を残して玉砕。少尉ならびに軍旗の行方が分からなくなってしまった。

報告を受けた本隊は直ちに軍旗捜索隊を編成するが、第一次捜索隊はアッという間に全滅。

次なる捜索隊を探しあぐねているところに、数々の危険地帯に転属させられてきた噂の独立愚連隊、左文字小隊の名前があがった。かくして、左文字少尉(演:加山雄三)率いる左文字小隊は意気揚々と赴いた。

だが、この事は敵である八路軍の耳にも入っていたのだ…。

前作『独立愚連隊』(1959)はミステリと西部劇要素に溢れた快作でしたが、あまり悲観的に描かれない戦闘シーンのためか好戦的だという批判を多く受けました。戦場の虚しさを表現するために行った戦場描写が、かえって誤解されてしまったのです。

そこで本作は、戦闘シーンもあるものの極力人物たちの死亡シーンを抑えた形をとりました。代わりに大幅に加えられたのは、ユーモアとキャラクター描写です。

朗らか呑気に見えてキチっと締める若大将こと左文字少尉に始まって、小隊の頼もしい母ちゃんポジションの戸川軍曹(演:前作で主役を張った佐藤允)、神谷(演:堺左千夫)(演:中山豊)の一等兵漫才コンビ、本隊から合流した真面目一本の関曹長(演:山本廉)、中国の地理に詳しい神出鬼没の助っ人早川(演:中谷一郎)といった、一癖も二癖もあるメンバーは観ていて楽しい限り。

加えて、本作は東宝の映画のため、ゴジラを始めとする東宝特撮映画でよく見る顔が多く出てきます。前述の堺左千夫や山本廉だけでなく、久保明、平田昭彦、田島義文、沢村いき雄、堤康久などなど観ていて「あっ、この人は!」という発見がきっとあるはず。昔の映画は主役脇役問わず、その映画会社の「顔」というものがあって良いですね。

特に本作の堺さんと山本さんの活躍っぷりは、東宝特撮映画ファンからすると嬉しくなっちゃいますよ。

 

軍旗を追いかけているのは左文字小隊だけでなく、日本軍の士気を落とそうと画策する八路軍も出てきます。

そこで出会うのが梁隊長(演:フランキー堺だ!)率いる部隊なのですが、彼らに比べると左文字小隊は多勢に無勢。(余談ですが、この八路軍と左文字小隊が初めて出会うシーンはロバート・アルドリッチの痛快西部劇『ヴェラクルス』(1954)に似ています。西部劇好きの監督ですから、ひょっとすると参考にしたのかもしれません…?)

その窮地のくぐり抜け方は実に平和的かつ笑いの要素もありで、この辺の描写には監督の「他民族との触れ合いとは、戦闘ではなくこんな風に出会えたら良いのに」という願いが込められているように感じます。

旅の道中では、やむなく中国軍に身を転じた女性看護師(演:水野久美)や進んで中国軍のスパイになった中尉(演:中丸忠雄)にも出会います。彼らとの出会いも、戦争という大きな暴力の中でなければ疑い疑われたりといった関係ではなく、もっと気持ちよく、人間らしく出会えたろうに… と感じさせずにはいられません。

 

『独立愚連隊』シリーズ(1959~‘60)、『江分利満氏の優雅な生活』『戦国野郎』(共に1963)、『血と砂』(1965)、『斬る』『肉弾』(共に1968)、『赤毛』(1969)、『激動の昭和史 沖縄決戦』(1971)、『吶喊』(1975)、『ブルークリスマス』(1978)といった作品群は、戦争映画、時代劇、SFなどジャンルは多彩ながらも各々の作品で描かれている事は常に一貫しています。

それは、「戦うことの虚しさ、戦って真っ先に死んでいくのはいつも末端の人間である」という怒りのメッセージ。

「映画は、まず、何と言っても面白くなくては…」とは監督の言葉ですが、戦争中の体験は「ささやかではあったけれども痛烈だった体験」でもありました。上官らの理不尽な仕打ち、友人たちの死。

岡本喜八監督は軍隊生活でのあまりに悲惨な体験を、ある時期を境に喜劇的に考えるようになったといいます。飢え、鬼教官、訓練といった事を“笑い”に転化する事によって、常に死の恐怖について考えるコトがなくなったのだと。監督の明るめの作風は、そのような体験から生まれ出たものなのです。

 

本作は数ある岡本監督の作品たちの中でも、娯楽映画としての度合いと反戦のメッセージが素晴らしく調和した一作だと思い、今回選ばせていただきました。

作風自体はユーモア多めとは言え、話の前提がボロボロになった軍旗ひとつのために戦場に赴くというものなのですから、そこに託された「戦争の愚かさ」のメッセージを、僕たちはただ楽しむだけでなく、しっかりと胸に刻んでいかなければなりません。

とは言え、まずは映画そのものを大いに楽しもうではありませんか。

驚き、笑い、怒り、悲しみ、そしてシミジミしましょう。

話はそれからだ、愚連隊、前へーっ!


イラスト:城間典子(絵を描きながら「加山雄三はイケメンだなぁ」と呟き、若大将シリーズに興味を示した彼女。そう言われるとこっちも「未見だし観てみようかなぁ」と気になる始末。そういえば若大将シリーズって、レンタルでお目にかけないような気が)