2017年12月31日日曜日

第6回 どこまでも独りぼっち。『鉄砲玉の美学』の寂しさ。

 
今年も、もう残り僅か。
皆様は、初日の出を拝みに近くの山へ登ったりするのでしょうか。僕はおそらく、寝正月ですが!
地元に帰省し、初詣をする際に少し山を登るのですが、僕が山登りなんて言ったらそれくらい……やなぁ。

さぁ、気分を変えて!
山の出てくる映画で印象深かったのは、先日惜しくも亡くなった渡瀬恒彦主演の『鉄砲玉の美学』(1973)。
監督は、深作欣二や鈴木則文らと共に70年代の東映映画をリードした中島貞夫。
渡瀬とのコンビで撮った『狂った野獣』(1976)は、邦画屈指のカーチェイス映画だった。
普段は東映でバリバリ活躍している二人だが、この映画は日本アート・シアター・ギルド(ATG)で作られたもの。
低予算による製作スタイルは「1千万円映画」と言われながらも、映画会社からフリーになった監督(大島渚や吉田喜重)や新進気鋭の監督(黒木和雄や実相寺昭雄、寺山修司など)たちが、それぞれ自分の作りたい映画を作った。
この『鉄砲玉の美学』はATGの低予算で作られたものではあるが、キャストやスタッフはいつもの東映の面々。
なので普段作られていた東映の映画と比較してしまいがちだが、ヤクザをヒロイックに描く事が様式化していた当時の東映では作られなかったであろう、アンチテーゼの映画であった。

ウサギの路上販売をしながらブラブラと日々を過ごしているチンピラ、小池清(演:渡瀬恒彦)。
そんな彼はある日、九州進出を目論む天佑会が送り込む鉄砲玉として指名される。自由に使える100万円と拳銃を手渡されて。
宮崎県に飛んだ清のやるべき事は、地元のヤクザたちの縄張りで暴れ回り抗争のきっかけを作るというもの。
しかし派手に遊び回っても、喧嘩になるほど彼はまだヤクザになりきれない。地元のヤクザ南竜会も、事を荒立てようとしてこない。
逆に南竜会から送られてきたチンピラ(演:川谷拓三)に命を狙われたりするものの、清は彼を殺す事も出来ない。
彼はただひたすら、南竜会の杉町(演:小池朝雄)の情婦である潤子(演:杉本美樹)と情交にふける日々を過ごすのだった。
そんな中、南竜会が関東の組織のバックアップを受けたと知り、天佑会は九州進出を取り止めることに。
いよいよ用済みとなった清は、潤子から聞いた霧島に行こうとするが、彼女の姿も消えていた……

もしこの作品が東映で作られていたとしたら、小池清はうだつのあがらないチンピラながらも鉄砲玉として派手に暴れ回り、華々しい散り様を見せたかもしれない。しかし中島監督はわざわざATGという不慣れなグラウンドで、男の惚れるヒロイズムやアナキズムを一切纏わせず、徹底して「何でもない男」として小池清を描いた。

売れないウサギに必要以上の餌を与えずに「一にガマン、二にガマン。三四がなくて五にガマンや」とうそぶきながら、八百屋で拾った野菜くずを焼きそばにして食べる清。如何にくすぶった日々を過ごしているのかと分かる、良いシーンだ。
ウサギも清も、外へ弾ける(ウサギの場合は買われる、清の場合はヤクザとして認められる)瞬間を今か今かと待っている者同士に見えてくる。しかし彼らは、今までずっと外から目を向けられていなかった。
そんな時にかかった声に意気揚々とする清。
一緒に同居していた女とウサギを残して、一丁前にスーツを着込み、貰った拳銃に惚れ惚れする。
鏡の前で「ワイは天佑会の小池清や……」と何度もつぶやく様子は、『タクシー・ドライバー』(1976)よりも3年早く「ボンクラが急に力を手に入れて自分に酔うシーン」として描かれている。こういう男は、全世界共通だなぁ。
『タクシー・ドライバー』のトラヴィスは児童売春の娼婦として働いていたジョディ・フォスターを救う事で最終的に世間に認められるが、清はただの使い捨て役。彼が宮崎で暴れたとしても、それを評価する者は誰もいない。
鉄砲玉としての活躍も見込めず、ただ一時の快楽に耽る清。
それが永遠ではないと分かっていても、そこにすがるしか自分を保てない歯がゆさ。
自分に気があると思っていた女はふいと姿を消し、かつて同居していた女がやって来て、また一緒にいてあげると優しくかける言葉を拒絶してしまう。
どこで自分は間違ったのだろう。誰にこの気持ちをぶつけられるだろう。
彼は24歳の誕生日を誰にも祝ってもらう事なく、ちっぽけな、あまりにちっぽけな最期を遂げる。
オープニングの『ふざけるんじゃねえよ』をはじめ、要所要所で流れる頭脳警察の曲も、この映画では一介のチンピラによる、誰にも聞こえることのない遠吠えのように聞こえてくる。
憧れの霧島。彼にとって霧島とは何だったのだろう。





*清を鉄砲玉として利用する天佑会のお偉方や他のヤクザたちの会話シーンが映画では直接描かれることなく、画面外からの声として流れる。明らかに会合シーンを撮るほどの予算が無いためであるが、かえって「主人公の知らない水面下で、何もかも計画されているのだ」というやるせなさ、狡さが表れているようで、こういう表現もありだな、と思った次第。

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というわけで、今年の『映画、めくるめく冒険』は終了です。
今年最後の映画紹介が今作で良かったんかなとは思ってしまっても、否、やっぱり良いんです!
更新頻度が月イチという、凄~く亀の歩みなブログでありますが、どうか皆様、長~い目で当ブログを、来年からも応援していただきたく思います。
それでは、良いお年を~!

イラスト:城間典子

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