2018年3月1日木曜日

第7回 『はじまりのうた』を観て、音楽の楽しさを思い出してみるの巻。

{はじめに}
この文章は、2016年6月30日発行の『taomoiya雑文集』に掲載された『映画、めくるめく冒険』第7回の文章を再録したもので、ほんの少しの加筆・修正を加えたものです。

今年に入っての初blogとなりました。読者の皆さん、大変お待たせしました。
本当は違う作品を、1月2月とそれぞれ用意していたのですが、挿絵担当があまりにも多忙のため、絵を描く時間さえ取れず……といった状態でした。

「う~ん、このまま何も更新せずじまいなのは良くない。どうしよう」と思っていたら、何のことはない、過去の文章を紹介すれば良いではないか、と今更気づいたのです。
なので今回は、遅れた2ヶ月分をドドンと投稿します。
3月に突入し、春がそこまで来ていますね。そんな心弾む季節にピッタリの映画を、再録という形ではありますが紹介したいと思います。


音楽との出会いは古本と同じで、いつだって一期一会。
その音楽との出会いによって自分の感情が変化し、人々が繋がり、和解し合い、周りの世界が(少し)変わる。
音楽がもたらす力は、途方もない。音楽は私たちにとって、最もポピュラーで身近な魔法である。
今回紹介する映画は、そんな音楽の魔法によって導かれた人々の映画だ。
その映画とは、2013年のアメリカ映画『はじまりのうた』の事である。



ダン(演:マーク・ラファロ)は落ち目の音楽プロデューサー。
商業的な面よりも、芸術的な面において新人を発掘したかった彼は、とうとう自ら創立したレコード会社をクビになってしまう。
ある日、バーで飲んだくれていたダンは、ステージで歌っていたイギリス人女性グレタ(演:キーラ・ナイトレイ)に可能性を感じ、彼女に「アルバムを作らないか」と持ちかける。


予算もスタジオもない、会社の人間にも取り合ってもらえない、しかし音楽仲間なら多少のツテがある。ダンは言う。「PCと編集ソフト、マイクさえあればどこでも録音できる」と。彼らは、NYのあちこちで演奏、屋外録音でアルバムを制作しようとする。
この一連の録音風景シーンが良い。

防音のためかマイクにストッキング的な物を巻き付けたり、地元の子供たちに協力を求めたり、地下鉄で演奏して警察に捕まりそうになったり、ビートルズのようにビルの屋上で演奏したり。
スタジオの中であるか外であるかだけの違いなのに、見慣れぬ光景故か心地よい違和感。手作り感に溢れていて、とても微笑ましく見える。
(これらの録音風景は、ミシェル・ゴンドリー監督の『僕らのミライへ逆回転』にどことなく似ている。他にもこの映画に近いものを感じるところがあるため、両者は腹違いの兄弟のようにも思える)

何より、彼らがとても楽しそうなのが良い。
音楽は芸術であり商業であり怒りであり癒しであるが、まずもって楽しいものだ。
それを彼らは、アルバムを作っていくなかで思い出していく。
プー太郎状態だった父親に愛想をつかしていたダンの娘も、アルバム制作にギターで参加することにより父を知り、音楽を楽しむ。音楽は人を繋げる。



お気に入りのシーンがある。
身の上話がきっかけで喧嘩をしてしまったダンとグレタ。だがそこでグレタは、ダンがかつて使っていた、2つのイヤホンを繋げて音楽を聴くことが出来るというスプリッターを見つける。
「どんな音楽を?」
「プレイリストは見せないわ」
「プレイリストで人の性格が分かってしまうからね」
「それが恥ずかしいの」
「……見せ合わないか?」

会話の後、2人はお互いの「お気に入りの音楽たち」を聴きながらNYの街を歩き回る。
いつも見慣れてるはずの風景も「音楽の魔法」で彩りのあるもの、意味のあるものに変身していき、2人はついつい踊ったりなんかしちゃったりして!
ゲリラ的に撮られているこのシーンも、何とも生き生きとしていて素敵だ。

人物たちが生き生きしているのは勿論だが、映画そのものが音楽にウキウキして呼吸しているような感じだ。
2人の会話や楽しそうに街を歩くのを観ていると、こっちも「嗚呼、ホントにそうだよなぁ~」と、うんうんと頷いてしまう。

僕もケータイに入っている音楽を聴きながら、色んな所を歩き回るのが好きだ。
(自分だけじゃなく、他の人もそうだろうけどね……)


 気持ちいいドライブにしたい時、ひとりで物思いに耽りたい時、アイディアに詰まった時、どうしようもない時、気分を盛り上げたい時、思い出の曲を聴いて昔を思い出す時、たまたまラジオを聴いている時、大切な人と時間を過ごす時etc……音楽は傍にある。
たとえ聴くためのものが無くとも、覚えていれば自分でも歌える。
音楽は本当に、僕たちが思っている以上に生活に密着しているように思う。
僕はご飯を食べるように映画を観、映画を愛しているけれど、この映画に出てくる人物たちもご飯を食べるように音楽を愛している。

それはきっと彼らだけなのではなくて、僕も、これを読んでいる貴方もそう。
そして音楽のもたらす力と楽しさを噛みしめながら、またきっとこの軽やかで素敵な映画を観るのだろう。


イラスト:城間典子

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