2018年12月31日月曜日

第17回 2018年を振り返ってみようベスト その2

お待たせしました!
私的2018年ベスト10、5位から1位の発表です!
かっとばしていきましょう!

5位 『モアナ 南海の歓喜』(1926,1980,2014 ロバート・フラハティ(共同監督:フランシス・フラハティ/モニカ・フラハティ))

「ドキュメンタリー映画の父」と呼ばれている(確かそうだったはず)ロバート・フラハティ。
以前観た『極北のナヌーク』(1922)が予想以上の面白さだったので、本作も期待して観に行きました。
結果、素晴らしかった。
本作は1926年の段階ではサイレント映画として公開され、その後1980年に娘のモニカが撮影した島に赴き、島の生活の音を録音しました。
こうして80年にサウンド版『モアナ』が完成し、2014年、今度は2K修復による美しい画面も獲得。
今回観れたのは、その美しい画面と音を刻み込んだ決定版『モアナ』でした。
何とまぁ豊かな映画でしょう。
後から足された島の音という音は、26年の撮影当時に録ってきたとしか思えないほど自然で、とても生々しい。
繊細な音の設計が本当にお見事。
カメラワークも面白く、けっこう引き気味の画が多いです。広大な大自然の中で暮らしているというのが一目で分かります。
ベタではありますが、こういう基本を押さえた演出って本当に大事だと思います。
島の少年がヤシの木に登るシーンがあるのですが、ここは面白いです。普通なら画面いっぱいにヤシの木の全貌を見せて、そこを登っている少年が小さく映るといった演出をする事が多いかもしれませんが、
この映画では少年が木に登っている→木に登っているから少年が画面から消える→消えた時にカメラはパンをして少年を追いかける。少年は登り続けている→これの繰り返しです。
木がどれほどの大きさなのか想像力を掻き立てられますし、ゆっくりゆっくりしたテンポでカメラが追いかけるので、妙な笑いがこみ上げてくる、ユーモラスなシーンでもあります。この演出の自由度!
ドキュメンタリー黎明期だからこそ出来た遊び心なのかもしれません。



4位 『若おかみは小学生!』(2018 高坂希太郎)

これも大当たりの映画でした。そもそも、あの高坂監督(『茄子』シリーズは傑作!)の新作なんだから面白くないワケがない!
と信じて出かけたのが良かった。94分の中におっこの成長っぷりが、周りの人々がおっこによって癒され、変わっていく様が丁寧に描かれており、何より、おっこが可愛かった!
キャラクターデザインを見た時には「うっ……」となったのですが、それでも高坂監督を信じて良かった。
動くことによって、おっこの可愛さが引き立つんです!

小林星蘭ちゃんも、ハマり役でしたね。
そうそうこの映画、やっくんこと薬丸裕英さんやホラン千秋さん、はてはバナナマン設楽さんなどの芸能人が多くキャスティングされており、観る前は大丈夫かなぁ、芸能人起用かぁと思っていました。

しかし、皆さん良かった!
上手いか下手かは各々が判断する事として、皆さん見事にハマっていました。
特にホラン千秋さん。
さすが、かつて『魔法戦隊マジレンジャー』(2005)に出ていた(悪の幹部側で)だけの事はあるなぁ。そこでアフレコ鍛えられたんだろうなぁ。と、感慨深く観ていました……

良かった尽くしの良い映画でした。
3位 『寝ても覚めても』(2018 濱口竜介)

正直言って、これまでの濱口映画(『PASSION』(2008)など)は「ほー」と思う事はあっても好きになれないなぁと思っていたのですが、本作にはビックリしました。
この人の映画、ここまで面白かったっけ!? と疑うほどに。
長回しの多用で人物の動きをダラダラと追い続ける今の日本映画において、ここまで視線の事を律義に考える人がいたなんて! と感激してしまいましたよ。
演者の方々も、背伸びしてない感じで好印象。東出昌大さんは、以前から好きな役者さんでしたが、本作でより好きになりました。

これはいよいよ、あの『ハッピーアワー』(2015)を観なきゃだゾ……
はい、映画ファンを称したモグリが此処にいます。すみません。



2位 『ボーダーライン』(2015 ドゥニ・ヴィルヌーヴ)

開館一周年を迎えた、京都は出町柳の映画館「出町座」で『ボーダーライン ソルジャーズ・デイ』(2018)が公開されるというので、前作も一緒に上映しておりました。
Blu-rayを積ん見状態にしていたので、「どうせ観るなら映画館が良いな」と思って出向いたら大当たりでした。
映画館で観てこそ映える作品でしたね!
もっとアクションしている映画かと思っていましたが、ドゥニ監督の作家印が見事に刻まれた、ヒリヒリする人間ドラマの傑作でした。
出口の見えない地獄をひたすら進む主人公たちにシンクロするヨハン・ヨハンソンの不穏な音楽、引きの画で圧倒的な絶望と説得力を生み出すロジャー・ディーキンスのカメラ。
そして徹底的にドライな目線で、まるで神の如き視線でもって人物たちを見つめるドゥニ監督の演出…… いやぁ、凄かった。




さて、栄光の第1位は……

 1位 『1999年の夏休み』(1988 金子修介)

有無も言わせぬ、ぶっちぎりの1位です。
この映画を観れたからこそ、中村由利子さんを知り、ヘルマン・ヘッセを買い、
竹宮惠子さんの『風と木の詩』を読もうとしているのですから!
(皆さん、「そこは萩尾望都さんじゃねーの」という突っ込みは無しで!
萩尾さんよりも竹宮さんの絵の方が個人的には好きでして……)


そう。以前このblogで本作を紹介した後に、DVDを手に入れたのです。
レターボックス・サイズかつあまり綺麗な画質ではないのですが、いつでも4人に会えるワケです。
加えてこのDVD、本編音声だけでなく、中村由利子さんのBGM(主に劇中で使われた『風の鏡』からの音楽。
しかし、他のアルバムの曲も豊富に収録)が流れる音声トラックもありまして…… 
なので、BGMならぬBGVとしても楽しんでいます。ハイ、幸せです。

しかし、定期的に観返してしまう度に「則夫、かわいいよ則夫」状態になってしまうのは流石にマズい気がしている今日この頃です。



さて。2018年に劇場で観た映画たちを振り返ってみました。
旧作の割合が本当に多いなぁ……
懐に余裕がないと、どうしたって「観たかったあの映画」とか「本邦初上映」とかに惹かれてしまうんですよ。
ところで、今回のランキングに入れられなかった作品たちの多かったこと!


『暗殺のオペラ』(1970 ベルナルド・ベルトルッチ)
『動くな、死ね、甦れ!』(1989 ヴィターリー・カネフスキー)
『恐怖の報酬』(1977 ウィリアム・フリードキン)


といった、何れも観たかった幻の映画たちが、美しいリマスター版で映画館で観られた事も大収穫でしたし、

『犬ヶ島』(2018 ウェス・アンダーソン)
『ウインド・リバー』(2017 テイラー・シェリダン)
『希望のかなた』(2017 アキ・カウリスマキ)
『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス』(2017 ルーシー・ウォーカー)
『ライオンは今夜死ぬ』(2017 諏訪敦彦)
『ワンダーストラック』(2017 トッド・ヘインズ)


などの最新傑作が沢山あって、ランク付けに困りました。


皆さんは、どんな映画を映画館でご覧になりましたか?
また来年も、無精者なりに、いち映画ファンとして地道に様々な映画を観ていこうと思います。
それでは、よいお年を!

イラスト:城間典子
(昨日に引き続き、映画館にまつわるイラストたちです。あ、1枚だけ『1999年の夏休み』の則夫を描いたイラストを載せてしまいました。好きなんだから、しょうがない)

2018年12月30日日曜日

第16回 2018年を振り返ってみようベスト その1

皆さん、こんばんは!
今、このblogは大分県の実家で書いています。何故、実家なのか。それは年末だから。
そう。2018年も、もうすぐ終わってしまいます。
新しい環境に引っ越し(とは言っても以前の場所から車で10分ほど)、新しい職場で奮闘し、色々あったんだなぁと思わされる一年でした。
そんな2018年に観た映画たちの中で、どんな作品が心に残ったのでしょうか。思い出しながら、この文章を書いていこうと思います。

本当は2018年に公開された新作を対象とするのが普通なのでしょうが、となると俄然観た本数がガクッと減ってしまう無精者でして……
旧作のリバイバル(デジタルリマスター版など)も、範囲に含めます!
そして今回は、一つ一つの文章が長くなってしまう可能性大なので、2回に分けて投稿します。
あらすじも長くなること必至ですので、端折ります。

では、さっそく10位から振り返ってみましょう。
 10位 『ラスト・ワルツ』(1978 マーティン・スコセッシ)

公開40周年を記念してのデジタル・リマスター版という事で、「ラスト・ワルツ者」である僕は勿論観に行きました。
実は以前、吉祥寺バウスシアターが閉館する際に開催された「ラストバウス爆音上映」で、この映画もラインナップに入っていたのです。
しかし日程的に観る事が叶わず……(その時観た爆音映画は、デ・パルマの『ファントム・オブ・パラダイス』(1974)と石井聰亙の『シャッフル』(1981)『半分人間 アインシュテュルツェンデ・ノイバウテン』(1985)でした。ロック!)
何年か後に、その時の雪辱を果たす事が出来ました。
ザ・バンドの解散コンサートを撮っただけの音楽ドキュメンタリー映画なのですが、この映画の持つ凄みはどうしたことでしょう。
アメリカに数多くいるバンドの内の一つが解散するというだけなのに、彼らの歌っている様子、そしてインタビューを観ていると、まるでアメリカの音楽の歴史に幕が閉じられたような……
我ながら大袈裟だなぁと思いつつも、本当にそう思ってしまいます。

とは言え、ザ・バンドよりも格好良いのはゲストで来ているジョニ・ミッチェルで、ザ・バンドよりもオイシイ役なのはトリを飾ったボブ・ディランだと毎度毎度思うのですが!


9位 『早春』(1971 イエジー・スコリモフスキ)

これまたリマスター版によるリバイバル上映です。
約10年前にWOWOWで録画したDVD-R(汚い画質で、しかもスタンダード・サイズ)を大事に持っていた僕ですから、勿論行きました。
鮮やかな画面のおかげで、まるで別の映画を観ているような、否、初見のような気持ちで楽しみました。
年上のお姉さんスージーを想う主人公マイクの心理は、同じ男としてよく分かります。
犯罪スレスレ(と言うか時々シャレにならない)の行為をしてしまうその純情すぎる純情!

恋は盲目!
スコリモフスキの映画の人物たちって、ホントいつも盲目です。
所々に映える鮮烈な赤が、本作の世界観に超現実感を生み出しており、この点においても、彼の持っている映画感覚というのは凄いなぁと惚れ惚れしてしまいます。
ちょっとしたスパイス(小道具、美術、視点の変化)を加えるだけで映画の世界観はグッと拡がるので、面白いものですね。

8位 『きみの鳥はうたえる』(2018 三宅唱)

佐藤泰志の小説はここ数年で何作か映画化となってきましたが、最も早く映画化された熊切和嘉監督の『海炭市叙景』(2010)を除いて何れも酷い映画化だな…… と観たのを後悔することしきりでした。そこにきて今回の『きみ鳥』です。
濱口監督と同じように、彼の以前の作品(『Playback』(2012)です)には世間の評判ほどノリきれなかった過去もあったため、今回はどうかなぁとだいぶ不安だったのですが、杞憂に終わりました。

予想に反して、良い青春映画でした。
映画らしく盛り上げるための妙な改変(これもハッキリ言ってお笑いですが)もなく、主人公たちが体験した、ずっと流れているかのような明るくも気怠い時間を上手く掴んでいたように思います。
メジャーな映画では初監督となる(はずの)三宅監督ですが気張っている様子もなく、実に自然体で撮られているように感じられました。
「現場の雰囲気が見える映画」と言ったら良いでしょうか。



7位 『スリー・ビルボード』(2017 マーティン・マクドナー)

何故これを観に行ったのかなと思い返すと、「評判が良かったから」とか「ウディ・ハレルソンが出てたから」とかしか思い出せないのですが、今さら理由はどうだっていいのです。観れたことが大事。
これも良かったです。アメリカの抱える悪、それに拮抗する善を真っ向から描いた映画で、演者の力演、それを逃すまいとするカメラががっぷりと組み合った、力作と言えるでしょう。
コーエン兄弟の『ファーゴ』(1996)の時は好きになれなかったフランシス・マクド―マンドですが、本作の彼女は良かったですねぇ!
しかし彼女以上に素晴らしかったのは、サム・ロックウェルでした。やる気無しの本当にダメな警官の典型なのかと思わせておいて、徐々に明かされていく彼なりの正義、信念…… この点においてはウディ・ハレルソンの役柄も同じなのですが、彼らの心情をきちんと追いかけていたのも、この映画が評価された要因の一つでしょう。
こういう映画を作れるところに、アメリカの懐の深さを感じてしまうのです……

6位 『なみのおと』(2011 酒井耕・濱口竜介)

震災直後に作られた、「東北記録映画三部作」の第一部です。

本作の存在自体は知っていたものの、「濱口監督のだし……」という今では信じられない理由で長いこと観ていなかった作品でした。
しかし、『寝ても覚めても』公開記念なのか、(京都の出町柳に昨年12月に出来た)出町座で、この東北三部作が特集されると言うので、観てきました。ビックリしました……

大袈裟な物言いですが、ドキュメンタリーの新しい、そして自分の思うドキュメンタリー映画の最も理想的な形だと思いました。
この映画の構成は簡単なものです。3.11の際に震災に遭われた方々を向かい合わせ、各々のその時の記憶を対話させるというスタイル。
したがって、この映画には津波で押し流される家々や、地震で崩れ去るビル群といった映像は一切流れません。
画面に映るのは、2011年の3月11日を思い出し、相手にその時の状況、心情を伝える2人の人間が映るだけ。
相手=スクリーンの向こうにいる観客に対し向けられる「伝える」という意識。
しかも「各々が相手の目を見て話しているんですよ」というのを示すために、劇映画のようにいちいち切り返しをしているんです!
ドキュメンタリーでそんな事をすれば絶対面倒くさいに決まっているのに、わざわざそれをするという大胆不敵さ、潔さ!
『寝ても覚めても』の時にも感じた「視線に対する律義さ」は、この東北三部作で磨いていったのかもしれません。

ところで…… 本作につきものの「津波」というキーワードは、僕の故郷である大分県にも、これから絶対に必要なキーワードになると思われます。
(南海トラフ地震の事です)
その事をより考えるためにも、そしてドキュメンタリー映画の新たな豊かさを再認識するためにも、これら「東北記録映画三部作」のDVD化、Blu-ray化を強く望むものです。




10位から6位を、ざっと振り返ってみました。
拙い感想になってしまい、我ながら恥ずかしいと言うか申し訳ないと言うか……
これを読んで「この映画、観てみようか」と思って下さる方がいたら、本当に有難い。
そんな反省しきりの僕ですが、明日は5位から1位を振り返りますよ!



イラスト:城間典子(映画館をテーマにしたイラストたちです。実はだいぶ前に描かれたイラストなのですが、今回使わせてもらう事となりました。)