2024年1月8日月曜日

第31回 2023~2024年の映画に関するアレコレ

こんにちは!
前回の投稿では、昨年観た印象的な映画たちについて書きました。今回は昨年見逃した映画や今年公開される映画たちの事を書いていこうと思います。


年末の忙しい時期に公開だったのもあって「仕方ないよ」と思いつつも、やっぱり観ておきたかったのはヴィム・ヴェンダース『PERFECT DAYS』(2023)とアキ・カウリスマキ『枯れ葉』(2023)でした。
ヴェンダースは2022年のレトロスペクティブこそ観に行きましたが、新作は映画館で全然観れていない監督の一人。数年前の『アランフエスの麗しき日々』(2016)も「今はいいかな」と見逃したら、ソフト化もされない現在。あ~あ、悔やんでも遅いです。
これまでも『東京画』(1985)『夢の涯てまでも』(1991)で東京の姿を映していますが、満を持して「東京を撮る」感がある本作。
劇中で流れる挿入歌のセンスも「さすが~」ですし、この映画で初めて知った金延幸子がすごく良く、年明け早々、挿入歌として流れる『青い魚』を収録したアルバム『み空』(1972)のCDを購入しちゃいました。本作を特集したSwitch特別号も読み、準備はオッケーてなもんです。
映画が作られるそもそものキッカケからして、少し企業臭漂う感じなのが気になりますが、ピュア極まりないヴェンダースの切り取った東京の日々を、曇りなき眼で観たいと思います……。


カウリスマキが、前作『希望のかなた』(2017)の時点で監督引退宣言をしていたとは、ぜ~んぜん知りませんでした。
そんな宣伝もしてなかったような気もしますし(公開後に言ってたのか?)。
なので「へぇ!」とビックリもしましたが、こうして新作を撮ってくれて嬉しい限りです。 ヴェンダースの『パーデイ』と違い予告編と公式サイト以外の情報を全然入れてない状況ですが、作品尺が80分弱しかないと言うじゃありませんか。
短けりゃいいと言う気は毛頭ありませんが、それでも昨今の映画は長過ぎる。
常に長尺で撮る監督もいますから、きっとその監督にとっては「これが私の語り方」なのかもしれませんが、いかんせんその語り口が上手くないな…と愚痴っぽくなる始末。
「語るべきこと、映したいものを無駄なく豊かに映し出すこと」も、映画を作る人間に必要なセンスではないでしょうか。
カウリスマキは勿論、最近の監督で言えばケリー・ライカート、三宅唱などを観ると、つくづくそう感じずにはいられません。

話を戻して… これまでもシンプルな語り口でアッと驚かせてきたカウリスマキ監督。サイト内に載っている(皮肉屋らしい)監督コメントにもある通り、現在の世界は大きな暴力と悲しみの連鎖に満ちています。日本でも、元旦から大地震が起こり今も大変な状況にあります。
それを無視するのではなく、現実を意識したうえで「あえて愛の映画を作った」という監督。
世界で起きている事に比べたら、映画なんてチッポケなのかもしれません。
しかし、だからこそ、目をそらすための娯楽ではなく現実を見据えたうえで、映画の魔法を信じてみる。
カウリスマキの映画はいつだってそうでしたし、観る側の僕たち観客も「魔法」に身を委ねてきました。
だから映画を観る喜びに溢れるし、明日を生きる希望を見いだせるのだと思います。
そんな監督の最新作である『枯れ葉』。とてもワクワクしています。


とってもとっても観たかったのは上記の2本でしたが、
『福田村事件』(2023)
『THE FIRST SLAM DUNK』(2023)
『首』(2023)
『1%の風景』(2023)
『single8』(2023)
『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』(2023)
『バービー』(2023)
『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』(2022)
『おーい!どんちゃん』(2022)
『aftersun アフターサン』(2022)
『午前4時にパリの夜は明ける』(2022)
『EO イーオー』(2022)
『栗の森のものがたり』(2019)
『冬の旅』(1985)と、見逃した映画は数知れず。

こんなに観れてなかったのかと、書き出して唖然とします。
ちょっとでも気になれば、良い映画だろうがイマイチだったろうが観に行くべきだなと、今なら分かります(遅い!)。
『スラムダンク』はCGとキャスト変更が個人的にネックとなったり、前作『眠る虫』(2020)が個人的にピンと来なくて「ま、いいか」と見送ってしまった『ぬいぐるみ~』など、見逃した理由もあるにはありますが、でもアンテナにビビっと来たなら、行っとくべきだったな……。クローネンバーグだって、久々の新作だったのに。
大好きな『6才のボクが、大人になるまで。』(2014)の沖田修一版みたいだと思った『おーい!どんちゃん』を観れなかったことは大きな痛手でした……。まぁ、本作の公開タイミングは絶対合わないものだったので、諦めもついたのですが。


というワケで、今年はこんな後悔の嵐にならぬように映画館鑑賞に努めていきたいと思います! 
まずは何と言っても、ビクトル・エリセ監督31年ぶりの長編映画『瞳をとじて』(2023)でしょう!
静かな映像美の中に、人物の心の機微を見事に捉えてきたエリセ監督。
『ミツバチのささやき』(1973)『エル・スール』(1982)も相当に大好きな映画ですが、オムニバス映画『ポルトガル、ここに誕生す ~ギマランイス歴史地区』(2012)での『割れたガラス』というドキュメンタリーで魅せた映像の力強さ、豊かさに感銘を受けた身としては「伝説の映画監督で終わっておらず、今でも素晴らしい映画を作っている事」がとても嬉しかったです。
そこからまた10年ほど空いての本作は、映画についての映画であり、『ミツバチ~』で主人公アナを演じたアナ・トレントの再登板など、話題に事欠きません。
170分近くある映画なので少し身構えていますが、どっぷりとエリセ監督の語り口に浸りたいと思います。

次は三宅唱監督の『夜明けのすべて』(2024)でしょうか。
彼の出世作である『Playback』(2012)を観た時は「なんてオシャレ系映画なのかしらん」と、無性に気に食わない的な態度でした。
が、『きみの鳥はうたえる』(2018)で良い意味の「おや?」となって好きな映画となり、続く『ワイルドツアー』(2019)『ケイコ 目を澄ませて』(2022)は「素晴らしい!」の一言。
いま、邦画の監督で最新作が一番気になる人です。
人物だけでなく風景の切り取り方も素晴らしく、「画面に映る風景の中に人物が生き、物語が動いている」っていう感じがします。
ただ漫然と舞台としての空間を映すのではなく。うまくは言えないけれど。
その三宅監督が特集上映時の予告編演出をした、アメリカ映画期待の星ことケリー・ライカート監督の『ファースト・カウ』(2019)は昨年ようやく公開されたものの見逃したため、これも年またぎ鑑賞となります。


突然ですが、2024年前半は、俳優ハーヴェイ・カイテルの年になりそうです。
だって、『レザボア・ドッグス』(1992)のデジタル・リマスター版に始まり、1月中旬から『バッド・ルーテナント/刑事とドラッグとキリスト』(1992)、2月は『テルマ&ルイーズ』(1991)の4K版、3月には『ピアノ・レッスン』(1993)の4K版と、彼の代表作が綺麗になってドカッとリバイバル上映されるのですから! 
今も元気に活動している彼ですが、やはり90年代という時代を担った人だなと感慨深いものがありますね。
どれも大好きな作品でDVDで観返すことも多いけれど、劇場では観たことがないため、スクリーンで向き合えるのが楽しみで仕方ありませんね! 
(ところで、僕はハーヴェイ・カイテルの泣くシーンが大好きなのですが、共感する人いますか? 『レザボア~』でも『バッド・ルーテナント』でも『ユリシーズの瞳』(1995)でも「うううぅぅ~」と唸るような声を上げて泣くその様は、唯一無二のお姿だと思うのです……)

他にも、タル・ベーラ監督の『ヴェルクマイスター・ハーモニー』(2000)のリバイバル上映や、クリストファー・ノーランの『オッペンハイマー』(2023)も遂に日本での公開が決まりましたね。いずれも早く映画館で観たいです。
日本公開がいつなのか決定はされていませんが、『PERFECT DAYS』(2023)公開中のヴィム・ヴェンダースの次作『ANSELM』(2023)も見逃したくない一本。
『Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』(2011)の時と同様、3Dのドキュメンタリー映画だそうで、作中で暗唱されるパウル・ツェランの詩集は購入済、読んでる真っ最中です! 


と、ザッと反省と期待の文章でした。
映画館での鑑賞だけでなく、今年は鈴木清順のBlu-ray-BOXが発売されたり、ジョン・フランケンハイマーの大傑作『RONIN』(1998)や、本家よりも好きな『エクソシスト3』(1990)、『悪魔のいけにえ2』(1986)『ザ・ドライバー』(1978)『悪魔のはらわた』(1973)等々、色んな映画のUHD-Blu-rayが出たりして、嬉しい反面お財布事情が心配です。頑張らなきゃ。
そう言えば、昨年の11月頃にシネフィルDVDさんが、それとなくフェリーニの『そして船は行く』(1983)Blu-rayの販売をほのめかすツイート(「出たら買う人います?」みたいな)をしていたんですが、是非とも欲しい!あの映画、泣けるんですよね~。

「さぁ、どうなるか2024年」といったところですが、「どうなるか」ではなく「どうしたいか」という気持ち一つだなと。
そして日々の発見や発信を大事にできる年にしていきたいと、年始一発目に観た『パターソン』(2016)を観ながら決意しました。

本ブログも映画も人生も、絶え間なく続いていきます。素敵な映画との出会いが皆さまにも訪れますように。
どうぞ、これからも宜しくお願い致します。

2024年1月7日日曜日

第30回 2023年の映画を振り返るアレコレ

こんにちは! 
新年、2024年が始まって、はや数日。
僕たちと、このブログを読んでくださっている貴方、みんなで良い年にしていきましょう。 本年もブログの頻度はマイペースな気がします。でも、そろそろ「毎月1日に更新」とか決めていった方が良いなと感じています。 
更新してるんだか分からないブログなんて、誰も見ませんものね…… はっ、後ろ向きはイカンな!
というワケで、今まで以上に習慣化していこうと思います。
本年も何卒、よろしくお願い致します。


さて、昨年は仕事面でも家庭面でもバタバタとしており、笑っちゃうくらい映画館へ足を運べませんでした。
観たい、気になると思った映画の半分以上も観れなかった有り様で、今年はより映画館へ足をのばし、映画文化を応援しようと決意した次第です。
2023年ベスト10を組めないくらいに新作を観れていないため、新年一発目のブログは映画に関係するアレコレを書き連ねようと思います。こういう投稿は、何気に初めてのことです。 


昨年話題になった映画で観れたのは、宮崎駿『君たちはどう生きるか』庵野秀明『シン・仮面ライダー』(共に2023。以下、『君どう』『シン仮』)くらいでした。

共に初見時は凄く戸惑った作品で、シン仮はもう一度映画館で鑑賞、アマプラで配信されたので何度か再見したのですが、『君どう』は一回観たきり。
もう一度観に行って色々考えたいと思いながら、あっという間に年を越してしまいました。 映像の密度と描きたいものの欲望に満ち満ちていて、画面に映るものを追いかけるのが精一杯という状態でした。なので観終わった後は茫然。
前作の『風立ちぬ』(2013)は落としどころがあったよなぁ(あと、宮崎監督の遺言ぽい雰囲気)と思うばかり。こんな書き方ですが、この度の映画がスッカラカンだと言いたいワケではありませんよ!? 
「考えるな、感じろ」と言ったブルース・リーの言葉そのままを行く、稀有な映画体験でした。
今年も、どこかでロングラン上映している劇場がないですかね…… 今度こそ観に行くんだけれど。


『シン仮』も、相当面食らった作品でした。
チャチいCG、アニメ臭い人物造形、盛り上がるべき戦闘シーンが暗い画面、結局エヴァっぽい精神世界描写と話の落ち着けどころ。
「これが庵野さんのやりたかった仮面ライダーの世界なのか??」と頭を抱えるばかり。
ただ、2回目の鑑賞、他のシン・シリーズとの比較鑑賞やそれまでの事を鑑みてみると「ここまで歪ながらも正直な作品ってないな」と思うようになりました。
「庵野秀明」「仮面ライダー」「シン・シリーズ」というネームバリュー、それらに期待する売り手と観客の需要、作家としての矜持と妥協点。
様々なものが組み合わさって出来た、シン・仮面ライダー。

本郷猛のパーソナリティはそのまま庵野監督と言ってもよさそうですし、一文字隼人のより明るめなキャラ作りも、監督にとっての「希望」の象徴に見えました(本作の一文字こと2号は、本当に良いキャラクターしてる)。
何より、「石ノ森ヒーローは涙を見せる」という点をきちんと描いているのがグッとくるポイントでした。
日本を代表する特撮ヒーローである以前に、人並みに苦悩し涙する、孤独なヒーロー。
 この一点だけとっても、庵野さんが仮面ライダーを描いたことは「なるべくしてなった」と思います。
いつもの鷺巣詩郎さんではなく『天元突破グレンラガン』の岩崎琢さんが担当した音楽も、最初は戸惑いまくりでしたが聴けば聴くほど好きになり、今ではシン・シリーズ一の愛聴サントラとなりました。おかげで(?)、シン・シリーズの中で最も愛着の湧く映画になったとさ。
どう話を転ばせるか期待半分不安半分といった気持ちですが、第2+1号が活躍する続編、観たいなぁ。
(それにしても、塚本晋也演じる緑川博士の若かりし日が写っている写真。髪の毛フサフサ&マフラー巻いてバイクにまたがっているその姿は、かつて木梨憲武がやっていた仮面ノリダーみたいで、シリアスなシーンにも関わらず笑ってしまいました。皆さん、あの写真の塚本さんと木梨さんは似てるって思いませんか!?) 


と、観てきた映画の代表格を書きました。
勿論、これらだけを観たワケではありませんよ!
「タランティーノは常に話題になるけど、彼はどうしてるんだろ」と時々思い出す男、ロバート・ロドリゲス監督の最新作『ドミノ』(2023)は、あらすじからしてクリストファー・ノーランぽい映画なのかなと観る前&前半を観ている間は思っていたんですが、後半になるにつれ力技&メキシコ愛に満ちてきて、抑えきれないB級作家精神に溢れた楽しい映画でした。
「凄くセット臭いけど、逆にセットをセットらしく撮ることの方が貴重だし凄いよな」なんて思っていたら○○な事になるし、劇中の音楽は相変わらずジョン・カーペンターぽくて「好きだなぁ監督」なんて思っていたら、何とロドリゲス監督の息子であるレベル君の作曲だと! 
レベル君と言えば、ロドリゲス流ゾンビ映画『プラネット・テラー』(2007)で子役として出てた子じゃないか!とビックリ。お父さんの仕事を手伝うだけでなく、担当した音楽まで似るなんて……。
とにかく「~だと思ったら○○」が多かった本作。
こういう良い意味でB級の、サービス精神たっぷりの映画をシネコンの大スクリーンで観れるのは、乙な体験というか、贅沢なもんだと感じました。


年末に滑り込むようにして鑑賞した3本の映画、前田弘二『こいびとのみつけかた』デヴィッド・フィンチャー『ザ・キラー』ウェス・アンダーソン『アステロイド・シティ』(いずれも2023)はどれも期待以上の素晴らしい出来栄え。

前田弘二監督は日本のコメディ映画をしれっと支えてくれている、有難く貴重な監督ですね。主役二人が陰気な顔してるのも、ポイント高いです(えっ)。
フィンチャーは好きな時とあまりノレないときがあるのですが、本作は好きなフィンチャーでした。
いちいち演技も画面もキメてくるくせにスットコドッコイという、上等なハッタリを魅せてくる映画でした。これもある意味コメディかな?
そしてウェスです。この人は自分の持つ色、ウェス色を極めてきていますね。画面も語り口も。
ロケーションの生々しさとセットの手作り具合が上手いこと合致していた初期~中期らへんの作品が好きではある(『ダージリン急行』(2007)が一番好きだ!)のですが、こういう風に描きたいとなると、そりゃこうなるわなと。あ、これも好意的解釈ですから!


う~む、何だかこれだけで長くなってしまいました。年々文章が長くなってきているのは悪い癖だな……。
いったん区切って、昨年観れなかった&2024年観るのが楽しみな映画のアレコレを次回に回します!