2023年9月10日日曜日

第25回 秋の夜長にボク無能? 『無能の人』でしみじみ。

こんにちは!

暦の上では夏は終わり、秋に突入します。秋は一番好きな季節であると同時に、ちょっとおセンチな季節だとも思います。そんな時に、笑えてしんみりして少し元気の出る映画はいかがでしょうか?

 

『無能の人』(1991年 監督・主演:竹中直人)

 

漫画家・助川助三(演:竹中直人)は「娯楽漫画を描いて食っていく」という道を捨て、古物商、中古カメラ屋、そして今は河原で石を売る石屋として暮らしている。勿論そんな状態では生きていけないため、妻・モモ子(演;風吹ジュン)は団地のチラシ配りや競輪の受付嬢などをして日銭を稼ぐ日々。助川は石業界の権威ある人物に出会って石オークションのために探石行へ出たり、河原の渡し場を復活させようと再起を図るのだが…? 

日本が誇るアングラ漫画『ねじ式』『ゲンセンカン主人』の作者である漫画家・つげ義春。

彼は凄~くアングラな漫画を描く一方、自身をモデルとした貧乏な人々の生活模様を描いた漫画も多く執筆。その代表格である連作「無能の人」を、マルチタレントかつ俳優でもある竹中直人が監督したものが本作です。

今では多くの監督作がある竹中さん、実はこの映画が初監督作品。それまでに知り合った映画業界の面々を集め、かつてなく豪華で手堅いデビュー作が出来上がりました。

撮影・佐々木原保志、照明・安河内央之など、竹中さんとも縁のある石井隆監督の常連スタッフによる画面の彩りは素晴らしく、ビシッと決めつつ“漫画風なカット”に仕上げているのには驚き。

つげ漫画の映画化はアングラ路線を推し進めてスベったり作家性が強く出て別物感になる事が多いですが、竹中監督はあくまで「原作に忠実に」作っています。その律義さ、誠実さに対し「アッパレ!」と言いたくなっちゃいます。

漫画だとなかなか素顔を出さなかった妻の描写も忘れずに、映画冒頭の風吹ジュンは後ろ姿ばかり。顔が映った後も様々な人物たちが背中を向けているショットが多く、つげ漫画の“背中で魅せる、語る人物像”の流れを何気に汲んでおり「エライなぁ(何様)」と感心するばかり。

漫画で描かれると描写の一つ一つに侘しさが募ったり暗い気持ちになったりするものの(けど、それがイイ)、映画だと少し和らいで見えるあたり「『無能の人』観ちゃおうかなぁ」とフラッと観ようと思わせてくれます。

それもあってか、観終わった後には不思議と元気になれる映画だったりします。何故でしょう。

様々なエピソードを忠実に描写しながらも、合間あいまに家族描写のエピソードをしっかりと描いたこと、一話一話で区切られる漫画と違って通しで観ることによって、時間の流れが停滞せずに人間模様を描けたことが大きいのでは… と思います。

「ダメ人間でも生きてるんだよぉ」「この世界に誰か一人でも、一緒に過ごせる人がいたら…」という人と人との愛、繋がり。そういった人間賛歌の部分がハッキリと見えてくるように感じました。そんな感じが、ちょっとアキ・カウリスマキ監督の映画に似ているかもしれません。

状況が大きく好転するワケでもないけど、一歩一歩しっかり地に足つけて歩く。

主人公一家のその姿を観て、そこに微かな希望を感じるのだと思います。

 

イラスト:城間典子

(本作は多くの有名人が友情出演しており、あまりに多くてクレジット順も「あいうえお順」という可笑しさ。つげ義春さんも出ており確認できたのですが、奥さんであり絵本作家でもある藤原マキさんは今のところ確認できず…)

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