2023年12月5日火曜日

映画きらきら星 第3回『ツィゴイネルワイゼン』

こんにちは!

みなみ会館の思い出記事から、随分経ちました…。
久しぶりの投稿は、映画きらきら星でお送りします!
今回は、生誕100年を迎えた映画監督・鈴木清順の代表作をご紹介します。

『ツィゴイネルワイゼン』(1980年 監督:鈴木清順)

ドイツ語学者にして無頼の中砂糺(演:原田芳雄)、士官学校教授・靑地豊二郎(演:藤田敏八)、中砂の妻と後妻(演:大谷直子の二役)、靑地の妻・周子(演:大楠道代)
4人の男女がサラサーテ演奏の『ツィゴイネルワイゼン』のレコードを軸に、現実と幻想、生と死の境目を彷徨う怪奇幻想譚。

 

ここが見所:

『野獣の青春』(1963)『殺しの烙印』(1967)といった奇抜な映画を撮ったために日活を解雇された伝説の映画監督、鈴木清順。国内外の評価を得て世界中で愛されるカルト映画監督となった、そのキッカケとも言える本作。
「浪漫三部作」の後続作品である『陽炎座』(1981)『夢二』(1991)がより手作り感溢れる豪華絢爛な映画になっていくのに対し、本作はまだ抑制的というか派手なワケでもありません。
しかし必要最小限の画面から伝わってくる“音”やレコードを始めとする“円型の主題”など、映画を味わうのに十分な要素が盛りだくさん。一つ一つに目を凝らし、耳をそばだてる事で「おおっ」と感じたり「ゾワっと」したりと、五感に楽しい映画です。
野性味溢れる原田芳雄の色気、昭和初期の女性の雰囲気を見事に体現した大楠道代等、俳優陣の存在感も抜群です。常に戸惑っているような表情の藤田敏八も、ナイスなキャスティングです(本業は映画監督)

映画を使って遊びに遊んだ趣のある本作は、今もなお、妖しくも人の興味を掴んで離さない危険な魅力を振りまいています。

*監督の生誕100年を記念して、現在「浪漫三部作」が4K修復版となって映画館で公開されています。より美しい画面で、映画の醍醐味を味わえる最良の機会です。
僕も先日、本作4K版を観に行ってきました!
何度も観ている映画ですが、より普遍的で面白い映画だと膝を打った次第です……。

 


イラスト:岩佐悠毅

この映画の顔と言えば、やはり原田芳雄でしょう。
当時の無頼派を体現しているような風貌や所作、そしてフラフラと旅をし、骸骨のように儚げにも見える人物。そんな彼を描いてみました。

2023年10月4日水曜日

第29回 京都みなみ会館、閉館後へ行くの巻

こんばんは!
今日は京都駅側へ向かう用事があったので、それならばと京都みなみ会館へ向かいました。
閉館してから、初めて行きます。
もう此処で、映画を観る事はないんだな……。

ここ数日、当ブログで振り返り記事を書き続けたためか「この建物はどうなるんだろう」と先の事を考えてしまいました。

2023年10月3日火曜日

第28回 京都みなみ会館で観た印象深い映画たちのこと

こんばんは!
2023年930日、京都市内にある一つの映画館が閉館しました。
その名は、京都みなみ会館。
京都シネマや出町座など京都市にはいくつかミニシアターがありますが、その中でも個人的に多く通っていたのが本館でした。
今回は通常の映画レビューをお休みし、この映画館についての思い出を書き留めようと思います。

*連続投稿の最終回は、京都みなみ会館で観てきた数多くの映画たちの中から、印象深かったものたちについて書いていこうと思います。
1回目に書いた「京都みなみ会館のこと」はコチラから。
2回目の「京都みなみ会館のオールナイトのこと」はコチラからご覧ください。
新旧みなみ会館の姿

2011年に観た映画たち

『マイキー&ニッキー』(1976年 エレイン・メイ)
俳優にしてインディーズ映画の父と言われたジョン・カサヴェテスの映画には、DVDでレンタルして既に心掴まれていました。本作は彼が盟友ピーター・フォーク(刑事コロンボの人)と出演した、異色のギャング映画です。派手なドンパチはなく、ひたすら夜の街中を走り抜ける二人の姿に、映画に身を委ねることの幸せを感じました。
オッサン二人がうろついて、飲み食いして、くっちゃべって、喧嘩する。たったそれだけの事が、どうしてこんなに切なくなるのか。それはきっと、誰にだって起こり得る事だから。
ジャンル映画の形を借りて人間普遍の姿をフィルムに焼き付けたエレイン監督は、素晴らしいなぁ。
本作については過去にレビュー記事を書いておりまして、良かったらコチラから見てみてください!
 

『天国の日々』(1976年 テレンス・マリック)
70年代アメリカ映画リバイバル企画により、ニュー・プリントのフィルム上映で観る事が出来ました。
大好きな映画でしたが、市販のDVDはちっとも綺麗な画質ではなかったため、大画面であの美しさを観れた事は映画人生で上位に来る感慨深さでした。
思い入れの深さも込みではありますが、マリック監督永遠のテーマである「人と自然が生きる事、人という生き物のちっぽけさ」をバランスよく見事に描いた作品は、やはり本作に尽きると思います。
 

『アンダーグラウンド』(1995年 エミール・クストリッツァ)
「映画を政治的に」とはゴダールが掲げたスローガン(のはず)ですが、本作のストレートっぷりは凄まじいものでした。政治から生まれた悲しみや怒りを賑やかな画面と音楽に乗せ、まるでお祭り騒ぎのように描いている!
戦争によって何を得られる?それ以上に何を失う?
現実に起こった事を寓話のように描き、強烈なメッセージと共に映画で届けた思いを、僕たちは今一度受け止めて現実と照らし合わせ考えていかなければなりません。
 

2012年に観た映画たち

『追悼のざわめき』(1988年 松井良彦)
邦画史におけるカルト映画の極北として、名前だけ記憶していた本作。それがデジタルリマスター版として上映されると聞いて、大学の友人と一緒に行きました。どんな恐ろしいものが映っているのかと思いきや、確かに描かれているものはタブーなものだらけ&現在だと通用しないだろうゲリラ撮影の数々でした。
しかし根底的なところは美しいものを観ているような、そんな気になっていました。
その上映回には松井監督のトークショーがあり、危なっかしい撮影の裏話も聞けました。
映画学科で映画制作を学んでいる身としてはタメになりましたが、さすがに真似は出来ません……。
観たのはその時の一回限りで忘れている箇所も多いので、今見返すと当時より驚いたり「げぇ~」となるかもしれませんが、それもまた映画との面白い再会だな、とも感じるのです。
 

『銀河鉄道の夜』(1985年 杉井ギサブロー)
他の映画を観に行く度に予告編が流れていた本作。ふ~ん止まりだったけど観に行ったのは、挿絵を担当しているパートナーの城間さんが先に鑑賞して「凄く良かったよ!」と勧めてくれたからでした。
そして観に行ったら…… 好きなアニメ映画のトップに躍り出ました。
こんなに静かで、神秘的で、美しくて、情熱的で、切ないアニメは観たことがありませんでした。
別役実による詩情をたたえた脚本。ますむらひろしによる「猫をキャラクターデザインにする」大胆さ。細野晴臣による身体の奥底にまで響いてきそうな美しい音楽。田中真弓、坂本千夏らによるキャラクターの「心」に寄り添った確かな演技。そしてそれらの要素をバラバラな印象にせず見事に紡ぎあげた、杉井ギサブローの演出力。
確か本作も、フィルムで観たような気がします。
フィルムで触れる暗闇は、どこまでも続くような魔力がありますね。
上映が終わって自転車での帰り道。地上の光であまり見えない真夏の星空を見上げながら想いを馳せたことは、言うまでもありません。
 

『一条さゆり 濡れた欲情』(1972年 神代辰巳)
『恋人たちは濡れた』(1973年 神代辰巳)
『㊙色情めす市場』(1974年 田中登)
『人妻集団暴行致死事件』(1978年 田中登)
『赫い髪の女』(1979年 神代辰巳)
『天使のはらわた 赤い教室』(1979年 曽根中生)

やくざ映画やポルノ映画を観る時って、何だか少し不良っぽい雰囲気を漂わせて行きませんか?
度々行われていたロマンポルノの特集に行く際、僕はいつもそんな感じでした。

神代監督の映画を観る時は物語云々よりも「神代節を観に行く」という感覚でいて、流動的なキャメラと男女の交わりに身を委ねていました。
一番好きな神代映画は『赫い髪の女』ですが、『恋人たちは濡れた』の美しい“運動”を映画館のスクリーンで観れた事は忘れられない体験です。
田中監督の場合は「きちんと物語を語っており、その中でハッとするようなイメージを持ち込む人」という印象。『めす市場』のゲリラ撮影による猥雑なリアリティーは、物語に重要だからこそ撮れた田中監督ならではの表現だと思いますし、『人妻集団~』での粗筋だけでは伝わらない映画の(若者たちの、と言っても良いか)躍動感と確かな描写は、たった一度の鑑賞にも関わらず今でもありありと思い出す事が出来ます(Blu-ray化かDVDの再版してくれー)
曽根監督は「映画を破壊しかねないアバンギャルドさを持った人」ですが、『赤い教室』で描かれた物語の情念と映像のねちっこさ(そして時にクールに突き放す)にはメガトン級の衝撃を受け、ショックこそ凄かったものの「凄い映画を観た」と場面を反芻しながら帰り道を歩いたものです。

*京都駅八条口の高架下には、ボロい雰囲気の天下一品があります。ロマンポルノを観た後にここでラーメンを食べると何だか昭和の時代にいるような感覚になって、誰にも共有されない満足感を得ていました。
ただ、現在は改装したのか以前より小綺麗になっていて、少し残念。
 

『惑星ソラリス』(1972年)
『鏡』(1975年)
『ノスタルジア』(1983年) 以上、監督:アンドレイ・タルコフスキー

特集上映で初めて触れた、ロシアの代表的映画監督であるタルコフスキーの映画たち。どれもウキウキして観たはずなのですが……。
ものの見事に寝てしまいました。DVDで再チャレンジしても寝落ちして、完走できたのは何度目のリベンジだったか。
しかし映画館で(不本意でなく)眠ることも、かけがえのない経験なのだとも思えました。
音楽を聴くように映画に身を浸すという例えが、この監督ほど似合う監督もいないのではないでしょうか。
 

『アレクサンダー大王』(1980年)
『霧の中の風景』(1988年)
『ユリシーズの瞳』(1995年)
『永遠と一日』(1998年) 以上、監督:テオ・アンゲロプロス

巖谷國士さんの映画本で名前を知ってから、観たかった監督の一人でした。
勇んで椅子にもたれかかると、いずれの作品も長尺で長回しが多く、またしても心地よい眠りに……。
しかし、どの映画にも忘れ難いショットやイメージがあり「ああ、この一つのショットだけでこの映画の事はずっと忘れないな…」と思ったものです。
時にシリアスで、時に(群衆のワチャワチャ具合が)ユーモラスに見えるアンゲロプロスの映画。
不慮の交通事故で亡くなってから11年になりますが、未だにショックが続いています。
 

2014年に観た映画たち

『野のなななのか』(2014年 大林宣彦)
『この空の花 長岡花火物語』(2012)から2年、長岡から北海道芦別を舞台に移した本作は、現在と過去が入り乱れ、個人史における戦争の悲惨さを描いた熱量の高い映画でした(大林映画は本作に限らず、いつだってエネルギーに満ちているんですけどね)
何故これが印象深いかと言うと、下世話な話ながら鑑賞中すさまじい腹痛と便意に襲われ、一刻も早くトイレに行きたかった映画体験だからなのです。
「トイレに行きたきゃ行けば良いじゃん」と言われると「ですね」としか答えようがないのですけど、やはり我慢できるものなら全編を目に焼き付けたいではありませんか!
171分ある内の何分くらいから行きたくなったのかな…… まだまだ中盤、といった辺りだったか。
よもや大林さんも、自分の映画でこんなにトイレを我慢されるとは思ってもいなかった事でしょう。
そんな大林さんも『海辺の映画館 キネマの玉手箱』(2020)を遺作として、彼岸の人となりました。
生きている時は最新作も「監督ってば、またこんな変な映画撮ってさ~」なんて冗談を言えたものですが、新作がない現在ではカオスの極み&ふざけ倒している旧作(『HOUSE ハウス』や『ねらわれた学園』など)すら、観ていると悲しくなってきます。
 

2019年に観た映画たち

『パンク侍、斬られて候』(2018年 石井岳龍)
2019年に移転オープンした新みなみ会館で、初めて観た映画です。
石井聰亙監督が石井岳龍に改名してからは、映画のノリが依然と変わっていて進んで観ていなかったのですが、試しに観てみるとコレが滅法面白い映画でビックリしたのでした。
綾野剛、北川景子、渋川清彦、村上淳、國村隼といった個人的に苦手な俳優陣(または「また出てるわ~」と見る度に思う人たち、とも言う)がスゴく良くて「撮る人次第で、俳優って魅力的に見えるもんだな~」と偉そうに感心してしまいました。
語り部だけかと思っていた永瀬正敏さんも、まさかあんな形で出てくる(いくら猿顔だからって)とは…… おふざけも極まれば芸術だ!
と言わんばかりの、痛快無比な映画でした。
パンク万歳!
 

『恐怖の報酬』(1977年 ウィリアム・フリードキン)
京都シネマで初鑑賞、シネマ神戸で2回目、新みなみ会館で3回目、そして今年(2023)7月に閉館のアナウンスを受け、同じく新みなみで4回目。この映画だけは、デカいスクリーンでかかっていると聞くと映画館へ足を向けちゃいます。
結末だって分かっているのに、それでも毎度ハラハラしてしまう。何度も観たクレジットなのに、いつも「カッコいいぜ!」と唸ってしまう(なぜか僕は、黒地にデカい白文字のタイトルクレジットが大好きなんです)
映画鑑賞って、単に「気になる映画を観に行く」時があったり「イベント的なノリで観に行く映画」の時もあります。
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015)『シン・ゴジラ』(2016)『この世界の片隅に』(2016)といった一定数のファンがいる映画に起こるこの現象、僕にとっては本作がそれに該当するようなのです。
人物たちと一緒に崖っぷちを走り、吊り橋のシーンで運命のイタズラに驚愕・戦慄し、時折ホッと胸をなでおろす。大きなスクリーンで観るからこそ、こんな風に疑似体験的に映画を楽しめるんでしょうね。
 

『ラスト・ワルツ』(1976年 マーティン・スコセッシ)
数ある音楽ドキュメンタリーの中でもスコセッシ監督作品の中でも、トップに挙げちゃうくらい大好きな本作。
新みなみで上映される時点で既に出町座で上映されていましたが「やはりデカいスクリーンで観なきゃ!」というワケで行ってきました。
フィルムの味わいが良い意味で残っており、リマスター効果は言うほど感じなかったのが正直なところ。しかし「綺麗な画面で」よりも、「大きな画面&大音量で浴びるように鑑賞する事」が目的でしたから、大満足でした!
オープニングから涙ちょちょ切れ状態で、何度観てもジョニ・ミッチェルがカッコよくて、オイシイのはやっぱりボブ・ディランで、だけどザ・バンドの話からアメリカのロック音楽史が垣間見えるような気がして……。
エンドクレジットでは「はあぁ~ん。」と、幸せのため息をつきました。
 

Let the Right One In(2008年 トーマス・アルフレッドソン)
邦題が『ぼくのエリ 200歳の少女』で知られる、ヴァンパイア映画の美しすぎる傑作。
同じ原作者の映画『ボーダー 二つの世界』(2018)公開記念で、特別にフィルム上映されました。
まだ大分県にいた高校生当時、今はなき映画秘宝で本作の存在を知り、地元の映画館シネマ5で観たのが最初でした。
静かな雪景色に映える人間の赤黒い血。そして雪のように真っ白な肌をした少年少女たちの触れ合いに胸が熱くなり、大切な映画の一つになりました。
輸入盤Blu-rayも持っていた(わざわざ輸入盤なのは、国内盤にあった無粋極まりないモザイクが無かったから)けれど「映画館で再び、しかもフィルムで観れる!」とあって、問答無用で鑑賞してきました。
いつ観ても感動の映画ですが、その時ほど待ちわびて堪能した時間はなかったです。
何度か観ていたぶん細かいところまで目が届き、改めて丁寧に描かれた映画なのだと気づきました。


2021年に観た映画たち

『アメリカン・ハニー』(2016年 アンドレア・アーノルド)
今や新作が発表される度に話題をさらう映画スタジオ、A24。この映画はイギリス人作家アンドレアが監督したアメリカを旅する若者たちを描いたロードムービーで、この「ロードムービー」という一点に興味を惹かれ鑑賞しました。
なんせ監督もキャストも知らず、唯一名前を知っていたのは『トランスフォーマー』シリーズに出ていたシャイア・ラブーフのみ。あの頃は“ラブーフ君”といった風情でしたが、本作ではチョイと危ない大人の雰囲気を見事にたたえており、成長の月日を感じずにはいられませんでした。
生活に困っていたり、新しい土地で人生を始めようとする若者たちがバンで移動しながら、雑誌販売で生計をたてるという筋書き。演技経験のない人たちを集めたと言いますが、どの人物も存在感ありありで演技の引き出し方が上手いんだと思います。主人公スター(ティーンエイジャーの女の子)は当初戸惑うものの、この移動するコミューンに慣れてきて疑似家族のような関係になっていきます。
定住の日々で味わっていたクソみたいな毎日から抜け出し、決して楽ではないけど楽しみも悲しみも共有できる仲間がいる。これは逃避でもなんでもなく、それぞれが自分の意思で導き出した生き方の一つ。
果てしなく旅は続くけど、映画には限りがあります。163分の長尺も、流れに乗ってしまうとあっという間の時間でした。
日本ではソフト化されていない&上映がたった1(後日、もう1日だけ上映されました)とあって、大盛り上がりの上映でした。
 

いかがだったでしょうか。
薄々分かっていた事ですが、旧作率高いな…。そして印象深かった映画たちを集めたからって、やっぱり2011~2012年が多いな…。
ただ、みなみ会館のリバイバル上映のおかげで初めて観れた旧作が多かったものですから!

ゴダールやトリュフォー、アキ・カウリスマキの特集上映や、大好きなロックオペラ『Tommy(1975)を大音響で観れた事、オールタイムベスト1映画であるジャームッシュの『デッドマン』(1995)を念願叶って映画館で観れた事など、書き足りないものがまだまだあります。
本当に個人的に印象的な映画の列挙だったので、「お前の話なんか知らんよ」と思われるかもしれません。
でも、こうして思い出しながら書き留める事で頭の中に残っていた映画たちが文章となって残り、映画の記憶だけでなく無くなった映画館そのものの記憶も、いつだって思い出す事が出来るのです。

京都みなみ会館に携わった全ての方へ。
数々の映画と、それにまつわる思い出を有難うございました。
アキ・カウリスマキ特集の際に貼られていた、当時のポスター。
『愛しのタチアナ』は本編も大好きだけど、ポスターも可愛らしくてメチャ欲しい。

2023年10月2日月曜日

第27回 京都みなみ会館のオールナイトのこと

こんばんは!
2023年930日、京都市内にある一つの映画館が閉館しました。
その名は、京都みなみ会館。
京都シネマや出町座など、京都市にはいくつかミニシアターがありますが、その中でも個人的に多く通っていたのが本館でした。
今回は通常の映画レビューをお休みし、この映画館についての思い出を書き留めようと思います。
 
2回目は、京都みなみ会館の名物でもあったオールナイト上映の事を書きます。
1回目に書いた「京都みなみ会館の思い出」はコチラからご覧ください!
 
 
そう、京都みなみ会館と言えば、何と言ってもオールナイト(以下、AN)上映です。
「大学生で時間とヒマがあったから」と言えばそれまでですが、今現在の生活では考えられないくらいオールナイトへ行っていました。
「コレを観たい!」と思って行ってみると、ラインナップの中にあるノーマークだった映画が面白くて新しい発見、なんて事もありました。こういう出会いがあるのも、ANの良いところです。
人気のANになるとロビーに収まらずに出入り口まで長蛇の列が…… なんて光景も、コロナ後である現在からすると幻のようにも感じられます。
 
 
201164日「松田龍平ナイト」
『ナイン・ソウルズ』(2003)→『恋の門』(2004)→『46億年の恋』(2005)→『青い春』(2001)
 
これが人生初のANでした。豊田利晃監督の『青い春』(2001)は観ていたものの、大画面&フィルム上映により別物のような感覚で触れる事となりました。
46億年の恋』は寝ぼけ眼での鑑賞だったので、歪みまくった夢を見ているような感覚に陥りました。
今や偏愛映画である『恋の門』(2004)も、この時に鑑賞してゾッコン惚れこんだのでした。
それにしても松田龍平は、つくづく映画映えする顔です。
 
 
20111119日「U.K.ロック×映画ナイト」
『トレインスポッティング』(1996)→『コントロール』(2007)→『グラストンベリー』(2006)→『(500)日のサマー』(2009)
 
初の洋画AN。気合を入れて臨んだはずが、しっかり見れたのは『トレイン~』くらいで、『コントロール』『(500)日~』はうろ覚え、『グラストンベリー』に至っては「コレあったんだっけ」と忘却の彼方。
しかしこのANのおかげで、京都みなみ会館=『トレインスポッティング』という図式が出来上がりました。
(『トレインスポッティング』と『青い春』は、その後も度々上映されていたため)
 
 
20111210日「京都怪獣映画祭ナイト」
トークショー(久保明、福田裕彦)→福田裕彦 怪獣・特撮映画音楽ライブ→『怪獣大戦争』(1965)→『大魔神』(1966)→『大怪獣空中戦 ガメラ対ギャオス』(1967)
 
「みなみ会館と言えば怪獣!」と言われるほどになった、怪獣映画祭の第1回です。
スタートを切るにふさわしい大迫力大興奮の3本ですが、驚いたのはゲストでいらした久保明さん。
若い頃の優しく甘いマスクはそのままで素敵に年を重ねられており、思わず「自分ときたら…」と意味もない比較をしてしまいました。ちなみに久保さん、上映された『怪獣大戦争』の事はあまり記憶になく、なんといっても『マタンゴ』(1963)が印象深い仕事だったとトークイベントで仰っていました…。
怪獣映画祭の司会者として毎回来ていた木原浩勝さんは、新耳袋の人として名前だけは知っていました。
が、氏が凄い怪獣オタクかつジブリで働いていたと知った時は「人生色々だなぁ~」と、変な驚き方をしてしまいました。
 
 
2012428日「相米慎二ナイト」
『翔んだカップル』(1980)→『セーラー服と機関銃』(1981)→『台風クラブ』(1985)→『お引越し』(1993)
 
強く印象に残っているのは『セーラー服~』で、経年劣化したフィルムで上映されたため赤っぽくなっており、全編を通して夕焼け模様といった有様でした。でもそれが悪かったと言いたいのではなく、映画館のフィルム上映でしか味わえない経験を楽しめて良かったなと、当時も今も思います。
『台風クラブ』のうねるような熱量と悪夢っぽさにクラクラした後の『お引越し』は、〆にふさわしい爽やかっぷりでした。
*『翔んだカップル』はディレクターズ・カット版で上映されたのですが、タイトル曰く『翔んだカップル ラブコールHIROKOオリジナル版』が正式名称だそうで…… なんか凄いな。
 
 
2012128日「『赤い季節』公開記念オールナイト DEAR OUTLAW FILMS
『青い春』(2001)→トークショー(新井浩文、能野哲彦、村上淳)→『タクシードライバー』(1976)→『殺しの烙印』(1967)→『コントラクト・キラー』(1990)
 
『赤い季節』(2012)の監督・能野哲彦さんがチョイスした映画のAN
主演の新井浩文目当ての女性客でごった返していたかと思うと、彼のトークショー(村上淳も登壇)が終わった途端ゴッソリ観客数が減った事が、怒りと共に思い出されます。
「しょせん映画じゃなくてナマの有名人見たいだけかよっ!」と。
しかも『殺しの烙印』の時にはシュールさ故か笑いが漏れ、しかも笑いの種類が「俺()たち、ちゃんと分かってますよ」的な冷笑的な笑いだったため、それにも腹を立てるっていう…… 我ながらめんどくさい映画ファンです。
でも、ラインナップも内容もサイコー!
 
 
201383日「奇々怪々ナイト」
トークショー(みうらじゅん、田口トモロヲ)→『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』(1969)→ゲストによるセレクト覆面上映2
 
ブロンソンズのお二人がゲスト&作品チョイスをしたANで、トークショーで質問をした際に特製AMAバッヂ(海女。あまちゃんブームでしたからね…)を頂きました。
石井輝男監督の『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』(1969)がデカいスクリーンで観れるとあって、勇んで行った覚えがあります。
ケッタイな映画の代名詞として名を知られている本作ですが、なかなか泣かせるシッカリした映画だと思うのは僕だけですか!?
後の2作品は、お二人の選んだ覆面上映。トモロヲさんの選んだ一つは覚えているのですが、みうらさんが何を選んだか、忘れてしまいました…。
 
 
2014426日「真夜中のサスペリアナイト」
トークショー(浅尾典彦)→『サスペリア』(1977)→『サスペリアPART2完全版』(1975)→『アクエリアス』(1986)
 
でっかいスクリーンでギンギラガンガンな『サスペリア』を観るというのは、初鑑賞以来の長年願ってきた夢。それを叶えてくれたのがこのAN。この夜の収穫と言えば、アルジェント監督の弟子であるミケーレ・ソアヴィ監督の長編デビュー作『アクエリアス』でした。
舞台で起こるフクロウ男による連続殺人は画作りや殺され方などが凝っており、つかみバッチリのオープニングシーンも格好良く、嫌らしさのないビジュアリストっぷりに大いに酔わされました。
後年観た『デモンズ‘95(1994)も、噂に違わぬ傑作でした。
惚れこんで「Blu-rayを買おう!」と誓っておいて、
未だに買っていない怠け者。

2014816日「京都怪奇映画祭ナイト」
『帝都物語』(1986)→トークショー(嶋田久作)→『地獄』(1960)→『マタンゴ』(1963)
 
このANでは眼鏡を忘れる大失敗をやらかしてしまい、気づいた時は「もう嫌だ!綺麗に観れないなら帰りたい!」と思ったものの、いずれも大画面の迫力で魅せる映画だったので何とか楽しむことが出来ました(既に観ている映画たちだったのが救いでした)
『地獄』のタイトルバックは、デカデカと殴り書きのクレジットにストリップ風の映像と叫び声や荒ぶる音楽が乗っかるという、実に気〇いじみたものですが、みなみの大スクリーンでそれを観た時、お口あんぐりになってしまいました。こんな強烈な『地獄』は初めてだ!と、ボケた目でもハッキリ分かる映像の力でした。
このANは友人と行っていて、しばらくは田村役で出演していた沼田曜一のモノマネばかりしてました。
「接吻しろぉ!」とか「黙れぇ!」とかです。田村が出て来る時の異常な効果音(ビュウゥッ!と強い風の音のような)もマネしてました。バカですね~。
そして目玉は『マタンゴ』の上映。何故かと言うと、このANのために劇中で食べるキノコを和菓子屋さんに頼み、再現販売してもらったからなのです!
名付けて、マタンゴのきなこもち。
しかも中野昭慶特技監督がビデオメッセージで出演し、撮影時の思い出話を語ってくれるオマケつき。
みんな(僕らも)ゾロゾロ並んで購入し、映画の終盤、水野久美が「美味しいわぁ」と言いながらキノコをパクつき、それを見た土屋嘉男が美味しそうに食べるのに合わせて「カシャカシャ…」と一斉にフードパック(プラスチックのお惣菜入れるヤツ)を開く音が。そして各々、真夜中に甘~いきなこもちを頂いたのです。
「あそこまで一体感のあるシュールな映画体験は無いんじゃなかろうか、いや、無い!」と断言できるほど、面白いANでした。
 
 
2014920日「大人のための実相寺劇場 光と影そして、エロス」
『アリエッタ』(1989)→トークショー(古林浩一、堀内正美)→『ラ・ヴァルス』(1990)→『ディアローグ[對話]より堕落 ~ある人妻の追跡調査~(1992)『隣人』(1993)
 
悔やんでも悔やみきれないANと言えば、このANです。
実相寺監督はテレビや映画のみならずアダルトビデオも撮っていた人ですが、それらを上映するという珍しい企画で、ゲストには実相寺作品の常連であり『ラ・ヴァルス』『ディアローグ』に出演された堀内正美さんがいらっしゃいました。
当時、何故か僕は堀内さんとFacebook上で友達関係であり、このオールナイトの事も話題になって「サインの時間ではお声かけしますね!」とこちらから振っておいたクセに、当日になると委縮して声をかけられず遠くから眺めているだけ…という情けない結果になったのです。
加えて「貴重な機会だから絶対寝ないぞ!」と心に誓ったのに、部分的にとは言え4本中3本をうたた寝で完走(しっかり観たのは『アリエッタ』のみ)出来ず… タイムマシンで戻りたい出来事の一つです。
このチケットだけは、しっかりと手元に残しています。

20171223日「オーディナリーなライフにブリリアントな瞬間があるんだよナイト」
『パターソン』(2016)→『人生はビギナーズ』(2010)→『スモーク』(1995)
 
未見作品は『人生はビギナーズ』だけで、好きな映画たちを一気に観られる!といった気持ちで行ったのでした。
ところが軽やかな語り口の『人生~』に魅了され、マイク・ミルズ監督は忘れられない監督となりました。
京都シネマで初めて観た『パターソン』は「ジャームッシュの原点回帰」みたいな宣伝に期待し過ぎて「こんなもんかな」止まりでした。しかし大きなスクリーンで対峙する事で、映画に描かれる大小様々な出来事をしみじみと味わえて、だんだん好きな映画になっていきました。
『スモーク』は当時のフィルムで上映され、字幕の位置も現在の下側ではなく右側縦書き表示で何だか新鮮。
クリスマスが近い時期に、人生の甘いも酸いも描かれた映画たちに元気をもらえたANでした。
 
 
ザッと書き出すつもりが、結構な分量となってしまいました。しかし、これら以外にも「園子温ナイト」「映画監督・豊田利晃ナイト」「アリスメンタルジャーニーNight」「チミノの門を叩け!ナイト」(『ディア・ハンター』のフィルム上映はトラウマ)「片渕須直オールナイトin京都」「映画大好きナイト」「Start Me Up -イ・ク・ぜ!ナイト-」等、多くの忘れ難いANがありました。
映画は観るだけじゃなく、向かう道中の高揚感や休憩時間の過ごし方、帰り道の余韻を楽しむひとときなど、様々な時間が合わさって「映画を楽しむこと」なんだと、みなみ会館のANは教えてくれました。

2023年10月1日日曜日

第26回 京都みなみ会館のこと

こんにちは!
2023年930日、京都市内にある一つの映画館が閉館しました。
その名は、京都みなみ会館。
京都シネマや出町座など、京都市にはいくつかミニシアターがありますが、その中でも個人的に多く通っていたのが本館でした。
今回は通常の映画レビューをお休みし、この映画館についての思い出を書き留めようと思います。

*思い出があり過ぎて、一つの記事にまとめるには多すぎる事が判明しました。
なので3つの記事に分ける事にして、連日投稿します!
先ず1回目は「京都みなみ会館の思い出」について。
2回目は「京都みなみ会館のオールナイト上映」
3回目は「京都みなみ会館で印象に残った映画たち」についてです!



2011年。京都造形芸術大学映画学科の学生になって、大分県から京都市にやって来た僕が感じたことは、地元に比べて「文化が多い」というものでした。
恵文社やガケ書房といった個性的な本屋、数多くのカフェと喫茶店、ビデオ1とビデオ・イン・アメリカという、置いている作品の豊かさが尋常じゃないレンタルビデオ屋、そして映画館。


あの頃は、京都シネマと京都みなみ会館の二強でした。
京都シネマは四条烏丸のビルにある映画館で、ミニシアターらしいラインナップが魅力の映画館。地下鉄でアクセスしやすいのもあってか、ご年配の方々も多い印象。スクリーンは大小合わせて3つありました。
対して東寺の近くにある京都みなみ会館、その外観に最初は驚きを隠せませんでした。
なぜなら、見た目がパチンコ屋みたいだったから!

館内は名画座みたいなロビーで、スクリーンは大きなのが一つだけ!
なんて潔いんだ!?
上映される作品もアクションやホラー、インディーズ系の映画が多く「取っつきやすいアングラ映画館」といった雰囲気でした。

みなみ会館で最初に観たのは何の映画だったか、さすがに記憶の彼方なのですが、過去の上映スケジュールを見ているとオールナイト企画「松田龍平ナイト」か、エレイン・メイ監督の『マイキー&ニッキー』(1976)辺りかなぁと思われます。
でも『マイキー~』は予告編を観た気もするので一発目ではないか…?
しかし、オールナイトを一発目にする度胸もなかった気が……?
よもやソフィア・コッポラの『SOMEWHERE(2010)ではあるまいて。
人の記憶とは、いい加減なものです。
今でこそ映画鑑賞ノートをつけているものの、この頃はまだ付けてなかったので記録に残っていませんでした。トホホ。


大学生の頃は烏丸今出川と鞍馬口の中間あたりに住んでいた事もあって、必ずと言っていいほど自転車で向かっていました。
若くて元気があったワケですが、今なら毎回とはいかなくともバスや地下鉄を駆使したでしょう。地元の高校に20分ほどかけて通学していたので、北白川にある大学へ行くのも苦ではありませんでした。
その延長線上に「みなみ会館へはチャリで」があったのだと思います。


みなみ会館の斜め向かいには「喫茶 一本木」というお店があり、映画の前後によく利用していました。
店内は古き良き喫茶店ですが、置かれてある小さなテレビにはミュート状態にした往年の映画が流れていて、トイレには映画関係のポスターやポストカードが貼ってありました。
みなみ会館が一旦閉館してからもお店は続いていたようですが、新みなみ会館になった時には閉店していました。
大好きだったハンバーグサンドを「もっと食べたかった」と悔やんでも、後の祭りなのです。

閉館だの新みなみだのと書きましたが、みなみ会館は建物の老朽化による取り壊し&移転工事のため、20183月に一旦閉館しているのです。
この頃、一応は社会人として生きていたので以前ほど通えておらず、そのニュースにビックリしつつもどこかに距離を感じていたのが正直なところです。
 

新しい京都みなみ会館が出来たのは、翌2019年の8月。
前の雰囲気とは一新して2階建てのモダンな建物、スクリーンも巨大なスクリーン12階に小さめのスクリーン23があり、新しい映画館が誕生したのだと胸躍らされました。
新みなみで最初に観た映画は、石井岳龍監督の『パンク侍、斬られて候』(2018)でした。
『狂い咲きサンダーロード』(1980)『爆裂都市』(1982)など、パンクな映画を撮る人として知られる石井聰互監督が石井岳龍と改名してからは、映画もどこか内省的になったような気がして追っかけていませんでした。
「オープニング上映に選ばれてるし、どんなもんかな」とエラソーな気持ちで観てみたら何とも愉快痛快な映画で、石井監督の事も見直しましたし、綾野剛、北川景子、渋川清彦、村上淳といった「苦手だなぁ」と感じていた俳優陣が素晴らしい!
映画って出会いの場だよなぁと、つくづく痛感した新みなみ会館デビューでした。
 
過去の上映分を見てみると、新みなみは20192020年にかけて、出来てから12年に多く行っていたようです。
仕事も忙しくなってくると間隔が空いてしまい、ここ最近では「映画館に行くこと」自体が「よしっ、行くぞっ」みたいな、何か気合を入れて向かう感じになってきている始末。
以前のように「映画館で何か観よ」と軽いノリではなくなってきていました。
 

ただ、何度か通ううちに近隣のお店を開拓したり付近を散歩する事も増えていきました。
決めてかかっているお店が無い場合、新しい冒険も出来るというもの。
そこで見つけたのが、喫茶Cizzol(キズール)
かつて一本木のあった場所に出来ており、ちょっと覗いたろくらいの気持ちで入ってみました。お洒落なカウンターの奥には、一組のテーブルと小さなテレビ。そこにはロバート・デ・ニーロが監督と主演を兼ねた『ブロンクス物語』(1993)が流れていました。
ん、なんかデジャブ…。でもメニューは全然違うしなぁと思っていると、何と店主さんは一本木の方でした。
一本木が閉店した後、建て替え工事をして2020年にオープンさせたそう。
かつての一本木を知っている身からすると、こんなに嬉しいサプライズはありません。
映画だけでなく、素敵なお店時間も見つけてしまいました。
 

しかし、新みなみがオープンしてから4年。
今度こそ本当に閉館するというお知らせを受け取った時は、驚いたと同時に、12年間の京都生活に一つのピリオドのようなものが打たれたような感覚になりました。
唖然茫然とはこの事で、この23年の事を思い返して「もっと行って観ておけばよかった」と後悔しきりでした。僕だけでない、他のみなみ会館ファンの方々もそう思ったでしょう。
7月には『バニシング・ポイント』(1971)『エリック・クラプトン アクロス24ナイツ』(2023)8月は『恐怖の報酬』(1977)『戦争のはらわた』(1977)に行ってきました。いずれも大好きな、そして大スクリーンで観たかった映画たちでした。感無量とはこの事です。
 
そして先日9/26()、京都みなみ会館で観る最後の映画に行ってきました。
『アザー・ミュージック』(2019)というドキュメンタリーで、店員にもお客にもアーティストにも愛された一軒のレコードショップが閉店するまでの様子を撮影した映画です。
映画そのものも音楽愛、お店愛に包まれた素晴らしい作品だったのですが、みなみ会館の状況とどうしてもダブってしまい……。映画上映後、館内のロビーや建物の正面写真を撮ろうとした時に「うっ」と抑えられなくなりました。
本当に終わってしまうという実感が、不意に押し寄せてきたのです。
最後に観るにはあまりにも寂しく、でも、だからこそ最後で良かったとも思える唯一無二の映画体験でした。
 
京都みなみ会館は1964年からスタートしており、場所を変えながらも約60年間、映画を上映し続けてきました。
僕がみなみ会館に触れたのは12年間。長い歴史からすると短いものですが、全体の6分の一ほど共に過ごしたんだと思うと、何だか前向きな気持ちになれました。
僕の京都生活は、そのまま京都みなみ会館と過ごした時間でもあります。
映画館そのものはなくなっても、記憶はいつまでも残り続け、語り継がれていきます。
「かつて、京都市内にこんな映画館があったんだ」と……。

2023年9月10日日曜日

第25回 秋の夜長にボク無能? 『無能の人』でしみじみ。

こんにちは!

暦の上では夏は終わり、秋に突入します。秋は一番好きな季節であると同時に、ちょっとおセンチな季節だとも思います。そんな時に、笑えてしんみりして少し元気の出る映画はいかがでしょうか?

 

『無能の人』(1991年 監督・主演:竹中直人)

 

漫画家・助川助三(演:竹中直人)は「娯楽漫画を描いて食っていく」という道を捨て、古物商、中古カメラ屋、そして今は河原で石を売る石屋として暮らしている。勿論そんな状態では生きていけないため、妻・モモ子(演;風吹ジュン)は団地のチラシ配りや競輪の受付嬢などをして日銭を稼ぐ日々。助川は石業界の権威ある人物に出会って石オークションのために探石行へ出たり、河原の渡し場を復活させようと再起を図るのだが…? 

日本が誇るアングラ漫画『ねじ式』『ゲンセンカン主人』の作者である漫画家・つげ義春。

彼は凄~くアングラな漫画を描く一方、自身をモデルとした貧乏な人々の生活模様を描いた漫画も多く執筆。その代表格である連作「無能の人」を、マルチタレントかつ俳優でもある竹中直人が監督したものが本作です。

今では多くの監督作がある竹中さん、実はこの映画が初監督作品。それまでに知り合った映画業界の面々を集め、かつてなく豪華で手堅いデビュー作が出来上がりました。

撮影・佐々木原保志、照明・安河内央之など、竹中さんとも縁のある石井隆監督の常連スタッフによる画面の彩りは素晴らしく、ビシッと決めつつ“漫画風なカット”に仕上げているのには驚き。

つげ漫画の映画化はアングラ路線を推し進めてスベったり作家性が強く出て別物感になる事が多いですが、竹中監督はあくまで「原作に忠実に」作っています。その律義さ、誠実さに対し「アッパレ!」と言いたくなっちゃいます。

漫画だとなかなか素顔を出さなかった妻の描写も忘れずに、映画冒頭の風吹ジュンは後ろ姿ばかり。顔が映った後も様々な人物たちが背中を向けているショットが多く、つげ漫画の“背中で魅せる、語る人物像”の流れを何気に汲んでおり「エライなぁ(何様)」と感心するばかり。

漫画で描かれると描写の一つ一つに侘しさが募ったり暗い気持ちになったりするものの(けど、それがイイ)、映画だと少し和らいで見えるあたり「『無能の人』観ちゃおうかなぁ」とフラッと観ようと思わせてくれます。

それもあってか、観終わった後には不思議と元気になれる映画だったりします。何故でしょう。

様々なエピソードを忠実に描写しながらも、合間あいまに家族描写のエピソードをしっかりと描いたこと、一話一話で区切られる漫画と違って通しで観ることによって、時間の流れが停滞せずに人間模様を描けたことが大きいのでは… と思います。

「ダメ人間でも生きてるんだよぉ」「この世界に誰か一人でも、一緒に過ごせる人がいたら…」という人と人との愛、繋がり。そういった人間賛歌の部分がハッキリと見えてくるように感じました。そんな感じが、ちょっとアキ・カウリスマキ監督の映画に似ているかもしれません。

状況が大きく好転するワケでもないけど、一歩一歩しっかり地に足つけて歩く。

主人公一家のその姿を観て、そこに微かな希望を感じるのだと思います。

 

イラスト:城間典子

(本作は多くの有名人が友情出演しており、あまりに多くてクレジット順も「あいうえお順」という可笑しさ。つげ義春さんも出ており確認できたのですが、奥さんであり絵本作家でもある藤原マキさんは今のところ確認できず…)

2023年9月6日水曜日

番外編その2「映画、めくるめく冒険 ~初めての沖縄・後編~」

こんにちは! 
「映画、めくるめく冒険 ~初めての沖縄・後編~」です! 
(※映画レビューな内容ではないので、ご注意!) 
前編はコチラから。


4日目。 
この日はHさんが1日車を出してくださる事となり、3日目に休みだった泊いゆまちへ海鮮丼を食べに行くところからスタート! 
お値打ち値段でマグロ丼を食べたワケですが、一緒についてきたアーサの汁が美味しい! 

本土で言うところの「あおさ」でして、程よい塩味が丼を進めてくれます。

お次は北部の方にある「読谷(よみたん)やちむんの里」を目的地にして、ドライブ! 
やちむんを作るための工房・窯・研究所まである工芸村で、多くのやちむんたちが販売されています。

普段は陶器を吟味する機会など無いけれど、いずれも素晴らしいものばかりで欲しい物が沢山!
悩みに悩んで、フリーカップを買いました。 これでビールでも注いだら、さぞ美味しかろうと思ったのです。 
登り窯なる珍しいものもありました。 窯が連なっており、とても効率が良さそうです。

その後、里内にあるカフェ「CLAY Coffee & Gallery」で、お昼ご飯をとりました。
こちらのお店では、お料理をやちむんに盛り付けて提供しており、食べる楽しみだけでなく見る楽しみもありました。 
ちなみに、ここで人生初のタコライスを食べ、その美味しさにビックリ。 
沖縄っぽさを求めてセットドリンクをグァバジュースにしたものの、
やちむんで珈琲を飲んでみたかった… と思った時にはすでに遅し。
しかし、ジュースもフレッシュな美味しさだったのでした。

「やっぱりタコスとして食べたいよね」なんて思ってましたが、タコライスもイイッ! 
そして会計の際、店長さんと思しき方に 「そのTシャツ可愛いですね」と言われた事に感謝感激してしまいました。何故なら、自作Tシャツを着ていたから! 
マイキャラクターのマスターくんTシャツが褒められた……と、プチ自慢もしたくなるってもんです。
褒められたTシャツ(実は販売してます!)



ところで、沖縄には「A&W」というファーストフードチェーン店があります。
古きよきアメリカのダイナーの雰囲気をたたえた店内、駐車場はドライブイン式。

アメリカンな物に弱い僕は「こげぱん 沖縄ぶらり旅日記(以下、こげ旅)」で存在を確認してからというもの、いつかは行きたいと願っていたのでした。 
やちむんの里へ行く道中にA&Wを目視した僕は、ひとり「うおぉ~!」と感激していました。 帰りの道中、同じ場所で目に焼き付けていると、Hさんが 「少し先にもエンダー(地元の方はこう呼んでいるそう)あるから行ってみます?」と、ご提案してくれるではありませんか!
えっ、良いんですか!?憧れのA&Wに?? 
車はエンダーへと進みます。しかも向かうエンダーは、一番大きな店舗&こげ旅に描かれた店舗らしい! 
今回の旅はところどころで、こげ旅聖地巡礼の趣があるなぁ。 
 到着すると、本当に駐車場がドライブイン式!かつては停めたら注文を取って車まで持ってきてくれるという本当の意味でのドライブイン方式だったようなのですが、コロナもあってか現在は駐車場としての役割のみ…  それでも充分なのですけどね!
レトロな車なのでディスプレイ的にお店が置いてるのかと思いきや、お客さんの車でした…。 
いい趣味だなぁ!憧れルゥ!

こげ旅にのっとって、カーリーポテト(フライドポテトがクルクルと螺旋状)とルートビア(薬っぽい味の炭酸ジュース)セットを注文しました。
ポテトうまっ!ルートビアもクセになるっ!

店内に流れていたのはエンダーオリジナルラジオやCMソングだったため、そこはタランティーノの映画みたいに古きよきオールディーズとかにしてほしいな…と思いつつも、約15年越しに夢が叶って大満足でした。
(この旅の中で一番テンションが上がっていたかも) 

軽い腹ごしらえを済ませ、セレクトショップ「ゆいまーる沖縄 本店」に行きました。

やちむんもあれば沖縄についての本、お土産などが置いてあり、ここで数点お土産購入しました。いずれもお洒落だ!
シマノネというブランドを知れた事は大収穫だぁ。

夜ご飯は4人で、うりずんリベンジ! 
積もる話を肴に、楽しい夜でした。 

 5日目。
この日は那覇空港の近くある、瀬長島へ行ってきました。沖縄と言ったら綺麗な海!

台風の影響か少し曇り模様でしたが、泳ぐことだって叶いました! 

空港から近いため、飛行機が飛び立つ場面を何度も見れます。 持ってきていたカメラを準備し、大好きな映画『都会のアリス』の冒頭シーンの真似事をしてみました。
思わぬところで感無量。

ウミカジテラスという地中海リゾート風の観光・食事スポットでお昼を食べ、国際通り~公設市場~桜坂方面へ。

僕はスクガラスが本っ当に大好きでして、今回の沖縄旅行も瓶詰めスクガラスを買う事を目標としていたくらいです。
公設市場では「こげ旅」に描かれていた通り、色とりどりの魚(イラブチャーなど)や顔の皮をひっぺがされたアバサー(はりせんぼん)、豚の顔の皮「チラガー」など一瞬ギョッとするような食べ物がたくさん!
 
スクガラスを買う時、お店のおばちゃんから 「稚魚の生産が国内じゃなくて、今やどこでもフィリピン産なのよ。値段も上がってきててね」と言われ、スクガラス存続の危機を感じずにはいられませんでしたね……これからも買っていこう。
1500円くらいのデカイ瓶詰めを買ったので、おばちゃんに「好きなんですねぇ」と言われました。ハイ、大好きです。 

桜坂には、沖縄を代表するミニシアター「桜坂劇場」があります。 

どこか懐かしい通りを行くと其処はあり、中には映画館としてだけでなく、映画の物販のみならず古本・中古DVD(映画関連がほとんど)の販売コーナー、カフェ、やちむん販売のスペース(これは2階部分)があり、広々として楽しい場所。

3つのスクリーンがあり、一番大きなホールでは音楽やトークライヴも行っているそうです。 映画は、京都でも上映中だった台湾の映画監督エドワード・ヤンの『エドワード・ヤンの恋愛時代』4K版を観賞しました。 
『恐怖分子』(1986)『牯嶺街少年殺人事件』(1991)『カップルズ』(1996)など、都会的でシャープかつ冷たげな印象を持っていたヤン作品でしたが、この映画は都市台北を舞台としながらもユーモアも多め(多少の毒あり)で人物たちも愛しく見えたりして、ぐいぐい見入ってしまいました。見終わった後の気分も晴れ晴れとし、事あるごとに見返したい一本になりました。 素敵な映画館と映画の出会いに、感謝です。

沖縄最後の夜は外食せず、ミミガージャーキーや豆腐よう、エンダーのポテトとバーガーを買い込んで、ホテル飲みをしました。
2日前に買ったカップにオリオンビールを注ぎ、あっという間の数日間を噛みしめながら……。

台風が来る来ると言われてどうなることかと危惧していましたが、時々強い風や雨が降るくらいで大した影響もなく過ごせて、ラッキー感激でした。
加えて、身構えていたほど沖縄は暑くなく、これなら京都市の方がキツい!と思う事多しでした。

行くところ、やる事が沢山で、本当に過ごした時間が早かった。でも、とても充実した数日でした。
思いきり楽しめたからこそ、体感時間も短かったのでしょうね。 まだまだ見聞きしたい事や再訪したいところが、いっぱいあります。
絶対また来よう。
そう心に誓った、素晴らしき冒険旅行でした。

自作Tシャツは「タガヤシ屋」というBASEショップで販売しています。